里人の想い~大根干し~  風景写真より 
人気のない刈田や集落の後ろに広がる雑木山が冬の装いに移ろいはじめ、中国山地に隔てられた山陰と山陽の空模様が著しく異なる季節がもう直ぐにやってくる。そんな季節の巡りの中で、それぞれの地域で暮らす人々は、その地で受け継がれてきた慣習に沿って冬支度をはじめていく。雪深い里も、寒風の吹きぬける里も、それぞれの気候風土に合った方法がいつの頃か考え出され、そこで暮らしてきた人々の手から手へと伝えられてきた。それらは優れた伝統技術や洗練された技とはいえないまでも、土と共に生きてきた人々が伝えてきた、生きるための知恵や方策で、集落や農家に残る地域性の見えるそれぞれの文化なのだと思う。

谷間に沿う集落に冷たい雨が降り、点在する農家や稲架小屋の軒先には幾本もの大根が並んでいる。大根の干してある風景は、稲架干しや藁塚と共に地域性を物語る目に見えるかたちとして風情がある。それはそれぞれの家庭が向こう一年のうちに消費する予定の漬物にされるのだが、その数や干し方、干し場の違いなどから様々なことが感じられてくる。そんな中でここの集落では、数軒の軒先に積みあげるようにして大根が吊るしてあった。「我家は狭かったから昔からこうやって干しています。」農家の婦人はそう語る。水分を抜くという効率から考えると利にかなっているとは思えないけど、このかたちがこの家に伝わってきた文化なのだ。そして、それを今に受け継いでいるのは、効率を考えることよりも、ここで共に暮らしてきた父母や祖父母、そして先祖を想う気持ちが勝っているからなのかもしれない。良くも悪くも時代は移り、暮らしのかたちは変わっていくけれど、その心の想いは何時までもあってほしいと願いたい。


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