里人の想い~年を越えて~  風景写真より 
 幾年も冬を越えてきた茅葺きの旧家が今年もすっぽりと雪に閉ざされる。たそがれる雪原に建つそれは、付近の家々が時の流れと共に瓦やトタン張りの屋根に葺き替えられていく中で、今だ古き面影を止めていた。母屋の中を温かく照らす灯火に包まれながら、この家が建てられた時から、多くの喜びや悲しみを共に過し、次の世代へと渡り継ぎ、時代を越えた幾世代かの家族によって守られてきた茅葺きの家。風雪にさらされて家は傷み、いつの日にか新しい家へと建てかえられて行く。そんな日が近いのだろうか。あるいは守り継ぐべく人も無く、朽ち果てて逝くのだろうか。
 今や個人のレベルでは、茅葺きの屋根を維持して行く事は楽ではない。ましてや竈や囲炉裏から立ち昇る煙に燻されなくなった屋根は傷みが早い。眺めるだけなら郷愁を感じさせてくれるいい風情ではあるけれど、そこで暮している人々にとっては、そんな感情だけでは生きて行く事などできない。先祖から受け継いだ家を守ろうとしても、その担い手となる若者の働く場が少なく、否応無く市街地へ職を求めて行く。結果、残されるのは老夫婦か、連合いの墓を守る老人だけとなってしまう。「何時かは我が故郷へ帰ろう」。そうは思っていても、様々な事情でかなわぬ事も多々あるだろう。そういう何某かの後ろ髪を引かれる思いで故郷を離れている人もいる。 一時の帰省を待ちわびる人。日々の疲れを故郷で癒そうとする人。それぞれの想いがささやかな賑わいを取り戻す頃・・。快適とは言えないまでも、そこには自然に流れる時間がある。何かに追い立てられているような感覚も無く、ただコタツに包まっていればそれで良かった。そんな想いがガラス窓からもれてくる。

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