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  島根日日新聞文学教室
   1年を振り返る
                                   古浦義己
                                                                          島根日日新聞 平成17年12月29日付け掲載

 平成十四年四月から出雲市で始めた島根日日新聞文学教室は、一昨年から松江市会場も加わり、参加していただいた方は、延べ八十三名になりました。
 教室での学習内容は文章を書くためにはどうすればよいかということなのですから、文学教室という名称はいささか大仰かもしれません。要するに文章教室ですが、その名よりも文学教室にすれば、文章だけではなく文学一般にも話が広がるかもしれないと考えての命名でした。ともあれ、文章の基礎、基本的なきまりや文章のルールを学んでもらおうということなのです。
 教室では、理論よりも実践、つまりは、書くということを主体にすべきだと考えています。具体的には、文章についての技術的な内容の学習があり、それを踏まえて書く、作品は新聞や雑誌に発表するという三本立てという形です。書いて推敲する、推敲したものを更に書き直す、そして、自分以外の人に読んでもらって意見を聞くという、多角的、立体的なスタイルで進めているのです。
 文章は、メモや他人に読んでもらう必要のない、自己完結型の日記ならともかく、一般的には、読み手を想定して書かれます。それは、分かるように書くということでもあります。そのためには、発表の場が必要なのです。
 たとえば、文化講演会などで、著名な作家、評論家などの講演を聴くことがあります。文章講座と銘打つ企画もありますが、それを聴いただけでは書けるはずがありません。書こうという雰囲気は出るかもしれません。文章や文学に関する教養や知識を得たいというのなら、講演形式のそれらもよいでしょう。
 島根日日新聞の文学教室は、基本を学習しながら書くという方針で続け、教室の皆さんは、暇を見付けて創作を続けられました。そして、多くの作品が島根日日新聞と文芸誌『季刊山陰』に発表されたのです。新聞に載せた作品数は、この四年間で百七十を優に超えました。もちろん、その裏には数倍もの作品が、発表の機会を待って鳴りを潜めているのです。
 今年の成果のひとつが、今秋の県民文化祭散文の部に現れました。受講されている方の中から、大田静間さん(出雲市)、山根芙美子さん(出雲市)、三島操子さん(松江市)がそれぞれ金賞、銀賞を受賞されたのです。
 金賞の大田静間さんの作品は、「彩の短冊」という小説で、母を亡くした彩という小学生が、七夕の短冊に母への思いを託すという心温まる物語です。主人公は女性教師ですが、だからと言って学校関係者だけの題材ではありません。電気関係技術者の大田さんは、学校に勤められたことはなく、詳しい事情をご存知ない男性ですが、それでも取材などして書かれた意欲や努力は称賛に価するものです。
 山根芙美子さんは銀賞でした。小説「河口にて」は、お互いに還暦を過ぎた早坂と私という登場人物が、年に何度か出雲で交流をする情景を情趣溢れる五つの場面で構成されました。私と早坂の関係は付かず離れずというような曖昧さがありますが、あえてそれを全面に押し出すことによって作品の印象がより強くなりました。更にそれを深めているのは選び抜かれた言葉群です。
 三島操子さんは、昨年に続き銀賞に入賞されました。今年の作品は、「風船葛」という標題の小説で、埋蔵文化財発掘に関わっている市の職員が、人間関係などの軋轢に悩みながらも、意欲的に仕事を進めていこうとする物語です。ちらりと書かれている、青年との淡い交情が作品の底流にあり、それがこの小説を美しくしています。この小説は、何回かの書き直しが繰り返されて完成しました。書く、意見を聞く、書き直すという作業の結果です。
 この三つは、来年一月に発行する『季刊山陰』第七号に、童話や随筆など多くの作品と共に掲載します。
 こうして、文学教室は月に延べ六回開講してきました。皆さんが書かれた小説や随筆作品は、毎週木曜日付け島根日日新聞に、また、年に四回発行の文芸誌『季刊山陰』にも掲載しています。書きたいという思いのある方の文学教室へのご参加をお待ちしています。 
 文芸誌『季刊山陰』は、この地方の文学土壌を深めるために、具体的には地方で発表の機会を持たない方々のために、作品掲載誌として創刊されたのです。文学教室の方々ばかりではなく、幅広く、書き手の皆さんの作品を掲載します。
 作品は、書かれただけでは完成しません。どんな作品であっても、多くの皆さんに読まれてこそ生き生きと輝くのです。