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  兄への返信               天従 勝己  
                                                                         平成18年5月25日付け島根日日新聞掲載

 山桜が咲く頃、鯛が釣れると、お手紙に書いてありました。その時期には、鯛が産卵のために、浅い所に移動するし、食べても旨いのだ聞いています。
 そうですね。漁師や農家の人達は、お月様=Aすなわち陰暦に合わせて一年中、生活をしているのだと私は感じています。
 ところが、現在では世界中の人々が太陽暦を基準にして暮らし、働いているのです。新聞やテレビのニュースでも、二十四節気を、例えば、今日は啓蟄です≠ニか、彼岸の中日です≠ニ言っています。節気の表現は、カレンダーの月日とは何か違うように感じます。
 そうは言うものの、私一人が旧暦で二十四節気を使うことは、出来ることではありません。
 話は替わりますが、サラリーマンやホワイトカラーの多い世の中で、現代は主婦でも中学生、高校生でも、インターネットで株式売買の取引をしている者もいます。
 しかし、私の子供時代は、小学校の高学年の頃から、春夏秋冬、農作業の手伝いをしていたのです。その記憶は、四、五十年経っても未だに身体の内に染み込んでいるのか忘れられません。特に、七月下旬の稲刈りは、暑さとの戦いでした。畑の畝作りも何もかも手作業でしたから、鎌と鍬で汗を流していました。
 だから、ご飯は、米粒一つ残しません。一粒の米になるまでに、何人の人々が種を蒔き、育て、気配りをして汗を流したことかと思うと、残すわけにはいかないからです。
 この間、面白いことがありました。エアコン二台を増設したのです。一台は、新聞の折り込み広告を見て買いました。六畳用で、取り付け費込みの四万八千九百円でした。折り込みが新聞に入っていた二日後、広告を手に出雲市内の大手電器店に行きました。担当のマネージャーが「もう売り切れです」と言います。
 日用品量販店での勤務経験があった私は言いました。「この広告には、限定何台とか、売り切れ御免というような表示がしていないので、他所の店から取り寄せて欲しい」と。店には、広告の品より高いものばかりだったからです。
 マネージャーは、早速電話して、「他の店にありましたので、こちらに廻しておきます。ありがとうございます」と、頭を下げました。
 もう一台は、知人の会社の倉庫に置いてあったH社の二〇〇一年製を一万二千円という安い値段で貰いました。それを松江のH社のテクニカルセンターに運び、一万四千円で点検してもらい、取り付け工事は二台とも大手電器店に依頼しました。
 こうして、和室四畳半と洋間八畳を別々に取り付けることが出来ました。
 四畳半は家内が主に使う部屋で、今まで暑い時には扇風機でしたから、湿度の高い梅雨期でも快適に過ごせるようになりました。
 結局、二部屋別々に取り付けたエアコンの総費用は十万円程度でしたから、我が家にとっては非常に経済的で助かったということになります。
 まとまらないことを書きましたが、暮らしの一端を知っていただきたく、筆を取ったしだいです。
 時節柄、ご自愛のほどを。

 追伸
  お手紙の内容から、母上様、姉様の様子が少し分かったような気がします。ありがとうございます。

◇作品を読んで

 手紙というのは、読んでほしい人がいて、その相手に向かって書くものである。告げたい内容があるから書くのだが、それが伝わらなければ意味がない。
 こだわる必要はないが、手紙というのは形式を大事にする傾向がある。だから、手紙の書き方などという本が、何冊も書店に並ぶことになる。
 うまく書かれた手紙は形式を重んじながら、ふっとそれからはずれた書き方があったりして、書き手の心が伝わるというものではないだろうか。
 作者は、日常の断面を手紙という形式で書いた。古くから、随筆や小説を手紙の形で書いた作品も多い。作者は、方法の一つとして新しい試みをしたということである。
 ただし、手紙の形式は、えてして内容が膨らみ、注意をしないと冗漫になり、伝えたいことが曖昧になりそうである。