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     サンライズ
                       
    天従 勝己                   
                                                                                   平成21年1月8日付け島根日日新聞掲載

 日曜日の早朝、久し振りに、隣町のゴルフ場に行った。初冬の山陰地方は、曇り空であったが、風も弱く良いゴルフ日和。月に一回の月例大会である。あらかじめ申し込んであるが、パートナーには当日初めてお会いする。ゴルフ場の都合に全て任せ、自分とコースとの勝負なのだ。所要時間は、五時間から六時間である。
 スタート時刻の十分前には、呼ばれてもその声が聞こえる辺りに集まり、「○○です。初めまして、よろしくお願いします」と、お互いに名乗り合い、挨拶を交わす。スタートの基本である。
 一番先に打った人は、平均的に上手である場合が多い。私は、ティーショットの打順がだいたい四番か、ときどき三番になる。初めて間もない人、あるいは何十年の経験者でも、それなりに事前に準備万端整えてはいるものの、最初の一打はかなり緊張するようだ。
 還暦三年生の私は、冬場は特に苦手だ。「オービー(アウト・オブ・バウンズ)」が恐怖だからである。
 身体が温まってくる三ホール目くらいまでは、その日の体調はどうかと、体力を自己診断しながらプレーする。
 山口県のゴルフ場で、趣味として始めてからもう二十五年になる。最近は、向かい風のほうが良いことを思い出した。パートナーとの実力差が鮮明に分かり、グリーン上で球が止まり易いから、都合が良いのである。
 その日、一番最初に打つ人、つまりオナーは、大分県で開催された国体に出場した人物である。彼の苗字から、私はサンライズという言葉を思い出した。正確な記憶ではないが、七、八年前、彼がゴルフを始めた頃に一度同行したことを覚えている。当然、彼もそのことを少しは記憶しているに違いない。
 私は、その頃から、彼の飛距離が出ていたことを知っていたし、人間的に温厚で心優しい若者という印象を持っていた。いつであったか、仕事中に某所で偶然出会った時、彼のほうから笑顔で挨拶をしてくれた。雲州平田に住んでいるが、好青年の代表と言っていい。
 歩くという運動を伴うゴルフは、良いパートナーに出会うことで、心身共に健康によいのである。
 私の郷里は高知である。子供の頃から夕日は宇宙を橙色に染め、太平洋の西南方向の水平線へと沈んでいくのが自然だと思い込んでいた。出雲に住むようになり、少しずつ慣れ始めているが、冬の夕方は曇り空の日が多く、黄昏に橙色の夕陽を見ることは少ない。
 斐伊川に架かる鉄橋の東端に三脚を構えて、電車と夕陽を写そうとするカメラマンをたまに見かける。この頃、その訳がやっと理解できるようになった。冬に、焼け落ちるようなサンセット≠見るのはまれだから、そんな夕陽を写すその瞬間に価値がある。
 しかし、私は朝日のほうがどちらかと言えば好きである。その日の計画を脳裏に浮かべる時間の朝日は、私に意欲を持たせてくれるからだ。
 朝日の出る二十分くらい前から、辺りが少しずつ明るくなるが、その頃から、愛犬トラ君と散歩を始めるのだ。トラ君は、茶色の柴犬で、寅年に生まれた。名付けは家内である。毎朝のトラ君との散歩が、私の日課で重要な一部分を占めている。
 トラ君も喜び勇んで田圃の間や雑草の群れの中に鼻を突っ込む。臭いをかいで、動こうとしないこともある。好きな臭いだから、そうするのだろう。散歩を始めて九年になるのだが、トラ君の好みの臭いが、未だに分からない。
 トラ君は、「大」を必ず雑草の上にする習性がある。決して路上には放たないが、これだけは感心する。
 私の目標は、健康であることだ。健康という目標に向かって努力する。
 その健康維持の具体的な方法の一つが、愛犬トラ君との散歩であり、もう一つが、あと十年は続けたいと心に決めているゴルフなのである。

◇作品を読んで

 作者には、書きたいことが沢山あった。早朝ゴルフ、出会ったオナーの人柄、さらには、愛犬、健康への上昇志向に至るまでの材料が原稿用紙を前にして浮かんだ。そこからまとめたタイトルがサンライズ≠ナあったのではないか。
 ここではサンライズだが、文章は、ある語句が一本の線に沿って展開する組み立てを持っている。読み手の気持ちも、その線によって動く。書きたいと思っている内容をひとつの語句に集約しようと、作者が悩んだのはそこなのだろう。
 文学教室受講者のためにある「青藍」というこの欄に載せる作品は、完成作ではない。多くの方に見ていただいて意見を聞き、更に、精進を重ねる場である。305


回目から始まる今年の作品群に期待をしたい。