デンマークにおけるの高齢者福祉の構築 ・・・1990年代報告

                                    デンマーク研究会 関 龍太郎

 

デンマークの高齢者福祉を見るときベント・ロル・アナセン氏の影響は大きい。氏は1929年にコペンハーゲンに生まれ、コペンハーゲン大学経済学部を卒業し、福祉省に入省、コペンハーゲン大学助教授(62〜72年)、ロスキル大学教授(72〜75年)、福祉制度改革委員会下の実務委員会委員長(66〜69)、高齢者医療制度改革委員会委員長(79〜82年)、福祉大臣(82年)などを歴任。現在のデンマークの福祉社会をきづく過程で1960年代から重要な役割をはたした。89年6月から早期年金を利用して引退し著作、講演活動等で国際的に活躍している。ここでは1991年10月に松江で開催した講演会での主な発言を紹介したい。

 

デンマークの各種の報告をみて、すごくお金がかかるのではないかといわれる年をとって、尊厳を持って生きて行くには金がかかる。デンマークの1人りあたりにの国民総生産は日本と同じか、ちょっと低いぐらいです。我々が高齢者の福祉にお金を使うのは国民がそれだけのものを使う意義があるという国民との合意があるからです。

デンマークと日本の違いの中で大事なのは、65歳以上の人々の同居率の差です。日本は15年前は80%ですが、今は50%です。デンマークは今、3%以下です。一緒にいたいということと一緒に住みたいということは別です。デンマークでは別居していることによって既婚女性でも仕事に出かけられる条件が整えられるのです。家で親をみる必要がないということが仕事を継続できるということになっているのです。ですから、デンマークの場合には、お嫁さん、あるいは娘や家族がやっていた仕事のある部分を今、行政が肩代わりするという政策で家族関係を維持する施策を取った。ただし、それは、家族の仕事を国が取ったのでなくて、家族が維持できなくなって、助けてくれと、その支援として行政がその部分に入り込んでいった。そういう順序で福祉行政というのが発展してきたわけです。

福祉分野は民間の競争原理を使うよりも、パブリックでやる方が効率的ですし総合的に出来ると思います。

75歳の女性がいるとします。デンマークでは独りでアパートか持ち家に住んでいます。大体半分ぐらいの人は自分の子供と1週間以内にはコンタクトがあります。ある日、脳卒中で倒れるとします。入院する。これはデンマークも日本も同じです。医療費が払われる。デンマークは無料ですが日本は保険で支払われます。デンマークは税金からです。

違うのは退院からです。デンマークの場合には、入院中に医療チームと自治体の福祉、在宅ケアをやっている人がきて退院計画の会議を開きます。家に帰って、生活できるかどうかを検討します。リハビリの継続が必要なら、デイセンターのOTにつなぎます。また、市から無料で車椅子を提供します。場合によっては車椅子を改造します。市が家の段差とかトイレとか風呂も改造します。食器も提供します。ただ、物を渡すのでなく、使いこなせるように職員が改造とか、補助器具の提供をします。

次に、今度はホームヘルパーがどのくらい必要かを判定します。夜なども自分でトイレに行けないとか、倒れやすい、倒れたらたてない。その場合には「24時間の在宅ケア」があります。警報機とか電話で連絡すると、ヘルパーとか訪問看護婦がすぐ、いつでも来てくれます。また、人によって、コミュニケーションの機会がない人には、入院中からデイセンターでの活動とかクラブとか趣味が出来るように準備しておきます。

福祉はみんなのものですから、現物給付のニーズがあれば、収入に関係なしに

提供します。しかし、申請があればでなくて、サービスの網に落ちこぼれないようにどこかでサポートします。デンマークではニーズによって包括的に、総合的に提供します。アメリカのように保険会社式だと、ニーズがなくても権利があるから提供しなくちゃならない。あるいはあるとこまでしか出ない。総合的でないためにおこる欠陥です。さらに別のリハビリを必要と思うと、もっと高い保険を買う以外にない。どうしても保険方式は細切れになるのです。

総合的なシステム、住宅改造、補助器具、ホームヘルパー、訪問看護婦、日常の活動などを総合的にするには、一ヵ所でやった方が効率がよい。そうしたほうがお金がかからない。

入院期間をみると日本は平均30日位に比較して、デンマークは7.5日位、高齢者でも15日です。デンマークでは退院後の受け皿として「福祉」を位置づけているのです。病院のチーフドクターのひとりの賃金でホームヘルパーが7人雇える。すなわち、損得の計算をしているのです。

日本から来る人がタダだと悪用する人が出るのではないかといいますが、悪用ができない仕組みになっています。どんな在宅ケアをするかは病院のスタッフと在宅ケアのスタッフで決めています。ニーズの判定を第一線のスタッフでしているのです。決して、住民のニーズのみではしていません。

在宅ケアのチームは看護婦、ホームヘルパー、作業療法士、理学療法士などで成立します。病院を退院するときに病院のスタッフと会議をして、ニーズ判定をします。現場のスタッフでケアを決めるのです。現場主義です。

自治体では予算を市議会で決定します。市会議員は名誉職で会議費しかでません。したがって、議会は夜に開かれます。もちろん、市民も傍聴出来るし、発言も出来る市があります。

私の住んでるネストベッズ市では、市が取る所得税が19%です。国が10%、県が10%です。基礎控除がありますが、それ以上は50%が税金です。その結果、医療とか福祉が無料です。保育料には3分1の自己負担があります。

貧しい市には、平準化政策、財政調整をしています。日本の地方交付税も同じようなものと思います。

行政というのは、国民のためにあるのであって、国家のために、行政のために公務員が働いているのでない。要するに公僕というけれども、まさに、そういうのが公務員の中にあるかどうかというのが非常に重要なポイントです。国家のために国民があるのでなくて、国民のために国家という便宜的なシステムが必要です。だから、世界中が北欧を誤解している。福祉国家、なにか中央がいろいろやったと、事実は逆で市民に合わせたものが、結果として、福祉国家というふうなものになってきたわけです。

ですから、行政に対する信頼があるし、市のレベルに分権化することに対して信頼がある。市民もそれなりの責任をとらなくちゃけいけない。税は市民が合意して、払っている。

訪問看護婦、ホームヘルパー、補助器具、プライエムのような施設、家の改造そんなものを全部いれても、高齢者福祉予算はGNPの3.5%位です。たいしたことがないと思いますが、これは日本の人口で換算すると厚生省の全予算になるんです。

北欧は高齢者福祉とか障害者福祉のサービスは、超減税を主張している党でも、下げない。保守党もこの分野は下げようとしない。ちょとでも、落とすと政治的生き延びれない。これは、スウェーデンも同じです。

日本では、他の国々と同じにする必要はない。いろいろな社会的な要因がありますから、それに合わせた制度というのを考えてつくていく必要がある。ただ、そのときにデンマークのケースがそれなりのインスピレーションになれば幸いです。

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