ホルベックの1992年の試み
 
                         デンマーク研究会
                             関 龍太郎
1992年の2月に3回目のスタディツアーにでかけた。正確には、デンマークには4回目の旅である。1回目は2日しかデンマークに滞在しなかった。約20年前のことである。デンマークに強く関心を抱きだしてからを数えると3回目である。1989年、1990年、1992年の3回である。前の2回が5月であったのに今回は2月という冬に出かけることになった。今回の旅でも、いくつかの興味ある事実を発見することが出来た。
 
1.ホルベックの92年の試み          
そのひとつは、ホルベックの新たな試みである。しかし、ホルベックの試みは決してホルベックだけでなくグラスザックセでもソーリューでも見られた。したがって、デンマーク全体での変化であろう。前回に訪問したときも、「施設は限りなく在宅に、在宅は限りなく施設に」のスローガンはよく聞いた。今回、それが「高齢者総合地域センター」として実現していた。1989年に、ホルベックでは、もう、プライエムを作らないと言ったことが現実になっていた。ホルベックでの変化は1989年の施設のスタッフを在宅のスタッフとして活用することである。その理由は、増加するであろう後期高齢者を在宅で出来るだけケアすることにある。もし、いままでように、施設でケアするなら、その経費は、250万
クローネを必要とする。それが、プライエムを全廃することによつて、110万クローネですむという計算である。
具体的には、ホルベックの1989年の高齢者の福祉資源をみると表1のとうりである。在宅ケアのスタッフが154人,プライエムが239人である。このスタッフの数が、人口30,860人、65歳以上の人口14.2%(4,368人)、である。この数字が日本と比較して如何に充実しているかはここでは、これ以上述べない。
今回、エリザベット総合保健福祉地域センターを訪問した。古くなったとはとはいえ全室が個室のプライエムがセンターに改造されていた。この施設は3階建ての35部屋と100部屋の二つの建物からなっていた。35部屋のほうが、デイセンター、デイホーム、ショートステイを含む地域センターに改造されていた。100部屋のほうは、高齢者住宅に改造されつつあり、2月現在72部屋が使用されている。高齢者住宅の床面積は約60平方メートルで、障害者も高齢者も生活しやすいように設計されている。高齢者住宅に入居しているフボーさんを訪問したが「プライエムという監獄から解放された」と語っていた。この他にも、この建物の近くにはショートステイにも使える9戸の高齢者住宅(今は痴呆のグループが入居している)、エレベター付きの2階建ての2DKの高齢者住宅がある。
このように、ホルベックでは、4箇所284室あるプライエムの全部廃止し、5つの地域センターを作る計画が進められている。そして、ショートステイの54人分、高齢者住宅の276戸を5つの地域センターの周辺に改築または新築する。284室が90年の12月には234室に92年の2月には160室になっている。経費的には老人一人あたり入居者の場合は約500万円,在宅では200万円である。89年にはプライエムを全廃の計画がたてられたが、90年の秋の統一選挙で議員の入れ替わりがおこり全部なくするのは不安だという意見が出、92年秋に評価検討して、次の段階にすすむことになっている。表2は89年段階の計画書である。これによると施設から在宅の方に予算が動いているのがわかる。
 
2.変革の過程から学ぶもの 
この過程のなかで、いくつか学ぶべき点がある。ひとつは、ホルベックでは1989年秋から在宅ケアが24時間体制になっている。24時間体制では何時でもボタンさええ押せばホームヘルパーとか訪問看護婦がかけつけてくれる。
このことによって、安心して在宅で夜を過ごせるようになった。プライエムへの待機がなくなった。また、この計画はコンサルト会社に委託して作成されている。思い切ったことを実施する際にコンサルト会社に委託するのもひとつの方法であると思った。このプロジェクトは88年から行政、スタッフ、住民が何10回となく会議を重ねた政策である。しかし、スタッフの中には在宅に行きたくない職員もおり、500人のうち25人はサインしなかった。これらの人は年金生活に入ったり、他の職場にうっった。一方、地方分権の強いデンマークであるが、このプライエムの建設を中止し、高齢者住宅の建設をうながす目的で国はプライエムの建設補助金を廃止、高齢者住宅の建設補助金を地方自治体にとって有利なものとした。国は建設の経費の85%を貸与した。13%を市が負担したが、さらに4%をローンとして認めた。入所者負担は2%である。ホルベックの場合、さらに有利にしたのは、土地がホルベック市のものであり、この土地代も国からのローンの評価にいれることになった。
 
3.在宅中心主義の背景
このような、在宅中心主義になった背景には増え続く後期高齢者にたいする対策としてプライエムでは財政的に破綻することになりかねないと考えたためと考えられる。そういう意味では一種の合理化である。効率的な行政をおしすすめようとした結果である。もうひとつの側面として、お年寄りの在宅で生き続けたいという要求である。高齢者憲章を制定し、その中には、お年寄りの権利を尊重し、安心感を与え、自己決定を尊重し、残存能力、自己資源の活用を考え、人間としての尊厳を重要視することが述べられている。このどちらの側面が今回のデンマークの変革を促しているかを深く追求することは意味がない。ひとつの現実として、デンマークでは総合保健福祉センターを中心とした活動が開始している。    
 
4.総合保健福祉センターから学ぶ
総合保健福祉センターによってホルベックはどのようになっているのであろうか。ホルベックの人口は約31,000人、老人人口4,300人、面積は15,947ヘクタールである。24時間在宅ケアが出来た段階で都市部の2地区、農村部2地区,島部の5地区区分し総合保健福祉センターを設立する構想である。総合保健福祉センターには、デイセンター、デイホーム、ショートステイ、カフェがあり、OT、PT、看護婦、趣味指導員、等の職員が働いている。これも、しだいに在宅ケアのスタッフによって運営される見込みである。在宅ケアのスタッフは17グループあって、ホームサービスを提供している。構成はホームヘルパーが12−13人、訪問看護婦が1.5人である。訪問看護婦はコーディネーターの役割をはたしている。このひとつのホームサービスのグループが、それぞれ80世帯をみている。このグループの中に対象世帯のホームサービスについては決定権がある。
このように、見てみると総合保健福祉センターは日本の公民館、総合生活保健福祉センター等と似ている。しかし、何よりも、違うのは働いているスタッフの数である。3万人のホルベックで、施設と在宅ケアで約500人のスタッフが働いているのである。もうひとつ理解しておかないといけない点として、在宅ケアについてである。在宅と言っても、多くのスタッフの手によって実現している。何もかも、家庭の労動力に期待するようなことはしていない。公的な介護を支えるスタッフの数がある。日本の場合、家庭の犠牲のもとになりたっているような気になるのは私だけであろうか。また、ショートステイと呼ばれる54ベットにしても、人口3万人のホルベックの65歳以上の1.3%にあたる。それも、108ベットにも使用が可能になっている。また、期間にしても、本人の必要な期間であり、1週間と限られたものでない。したがって、リリーフアパートメント、離れた所にあるアパートのようなものである。したがって、デンマークは、老人ホームをなくしてしまうというようにとらえないほうがいいのではなかろうか。  
 

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