訪問看護を考える
                   デンマーク研究会        関 龍太郎
1.老人訪問看護制度とはなにか
1991年10月4日に老人保健法が改正された。この際の改正の骨子は、@患者一部負担の引き上げ、A公費負担の拡充、B老人訪問看護制度の創設であった。1992年4月1日には制度が発足した。昨年の11月現在、中国地方で38カ所、島根県でも4カ所が開設している。この訪問看護制度は「できるかぎり、住み慣れたわが家・わが街で自分にふさわしい生活を続けていきたい」というお年寄りの願いに応え、発足した制度のひとつです。基本方針のなかで「家庭において寝たきり等の状態にある老人に対し、「かかりつけ医師」の指示に基づいて、老人訪問看護ステーションから看護婦等が訪問し、介護に重点を置いた看護サービスを行なう」となっている。実施主体は地方公共団体、医療法人、社会福祉法人、その他厚生大臣の定める者(公的医療機関の開設者、医師会、看護協会等)となっている。そして、事業者は事務所である「老人訪問看護ステーション」を設置する。そして、この訪問看護ステーションより、看護婦等のスタッフが家庭を訪問する仕組みである。人的基準や運営基準については老人保健審議会で検討され、人員は2.5人以上、うち1人が管理者として、常勤看護婦であれば他は非常勤でもよいことになっている。指示を行なった主治医には指示料が診療報酬
で支払われ、「訪問看護ステーション」には訪問看護基本療養費に訪問看護管理療養費、訪問看護情報提供療養費、訪問看護ターミナルケア療養費を加えた額が療養費支払われる。
日本看護協会では、「この制度は看護を医療機関等類似施設以外で開設し、独立して仕事したときに看護料が支払われる制度である。看護職を管理者とするステーションで、質の高い看護サービスを提供することが出来る等」の点で高く評価しています。しかし、「看護が一般の看護でなく介護が中心となっている点、老人訪問看護基本療養費が4、700円(准看護婦は4,200円)と低額であること、すべて、かかりつけ医の指示がいること等」で、今後に残された課題も多いことを指摘しています。
 1994年4月の診療報酬の改訂により、保健婦により、保健婦、看護婦、作業療法士等によるものは5、000円、准看護婦等によるものは4、500円になっています。また、「老人訪問看護管理療養費」も表にみられみように6、600円〜35、200円に改訂されている。1回あたりでみると     円〜6,600円となる。これに市町村に対して訪問看護の状況を示す文書を添えて老人保健福祉サービスに必要な情報を提供した場合、月1回限り1,300円(改訂前は1,000円)の「老人訪問看護情報提供療養費」がある。看護協会では、対象者30人、訪問看護婦2.5人で事業を想定したシミュレーションの試算をし12,179円を必要としていました。4月の改訂では、月に4回の場合で1回当たり8,670円(改訂前7,240円)となりましたが、なお、採算は難しいのでと考えられます。
また、老人訪問看護療養費を算定すべき指定老人訪問看護ステーションが、在宅で死亡した利用者について、老人訪問看護管理療養費を2カ月以上算定し、かつ、その死亡前24時間以内にターミナルケアを行った場合に10,000円の「老人訪問看護ターミナルケア療養費」が新設されている。しかも、この老人訪問看護ステーションによる「訪問看護制度」は、保健婦による「家庭訪問」、保健婦や看護婦による「訪問指導」、さらに病院・診療所による「訪問看護」とよく制度が似ています。しかし、違いがあります。その主な点を表1でみてみましょう。
この老人訪問看護ステーションによる「訪問看護制度」を厚生省では、1992年に400カ所、2000年には5000カ所にするといっています。
 
2.島根県老人保健福祉計画にみる「老人訪問看護制度」
「島根県老人保健福祉計画」(1994.4制定)によると、1993年に2カ所、1994年3月にある4カ所ある「訪問看護ステーション」を45カ所にするとしています。圏域でみますと松江圏域13カ所、出雲圏域11カ所、大田圏域6カ所、浜田圏域6カ所、益田圏域6カ所、隠岐圏域3カ所です。これは、各圏域、各市町村の「策定委員会」で討議された結果ですので、現在、そのような考えがあるということです。
働くスタッフとしては、訪問看護、訪問指導で1993年現在、126人のスタッフがいますが、これを訪問看護336人、訪問指導181人にするとしています。「訪問看護ステーション」で働くスタッフは、この181人のスタッフの中に含まれていることになります。したがって、松江圏域49人、出雲圏域40人、大田圏域25人、浜田圏域33人、益田圏域19人、隠岐圏域15人の中に含まれていることになります。
この計画が実現するためには、多くの問題点が予測される。
第1は経営問題であろう。1994年の改訂で8,700程度であるが、この料金だとかなりの経営努力をしないと赤字になる。何らかの形での市町村からの繰り入れが必要である。第2は、マンパワーの問題である。看護婦不足が言われる中で、どのようにスタッフを確保出来るかが課題である。島根県の場合、2,000年の看護婦等の不足は1,500人と言われている。老人保健審議会では、人員基準の中で一人の常勤管理者(看護婦)がいれば他は非常勤でも良いことになっている。それにしても、市部はともかく町村では看護婦の確保は困難が予想される。第3には看護、介護の機能のみならず、作業療法の機能を持たすべきである。そのためには作業療法士、理学療法士の確保の努力をすべきである。確保が出来ない場合は病院の作業療法士等を活用すべきであろうが、それも不足しているのが現状である。第4は「かかりつけ医」等との連携の問題である。医師の指示が得られないようにすべきだし、かかりつけ医に何がどの態度出来るかも知ってもらうための連携も必要がある。。第5に病院等の行う訪問看護とか市町村の実施している訪問指導との混乱がないような連携が必要である。利用料金の問題もあり十分に理解をすべきである。医師会、病院、市町村と訪問看護ステーションとの連携は必要である。第5に行政の行う保健福祉サービスの理解と連携が必要である。在宅介護支援センター、デイセンター、ショートステイ、保健婦活動等が、関係市町村でどのように展開されているかを知り活用することが必要であろう。
 
3.デンマークの訪問看護活動
デンマークの訪問看護活動の主役は訪問看護婦である。訪問看護婦は精神的、身デンマークの訪問看護活動の主役は訪問看護婦である。訪問看護婦は精神的、身体的な健康状態の観察、血圧測定、家庭医から投薬された薬の管理、医師の指示に基づく注射や傷口の手当という看護業務をしている。日本よりは看護業務が広いという印象である。さらに、各種の福祉サービスのニーズを判定するという重要な業務をしている。ホームヘルパー、配食サービス、補助器具、住宅改造の判定と手配も訪問看護婦のを業務になっている。訪問看護婦は、すべて公務員で「在宅ケア課」に所属している。近年ほとんどの自治体で「24時間在宅ケアシステム」を実施している。訪問看護婦の数は人口1万人あたり、8〜10人である。近年、作業療法士を採用する自治体も増え、補助器具、住宅改善については作業療法士に連絡することも増えている。また、ホームヘルパーの教育程度の上昇の中で、しだいに分権化の傾向も出てきており、ホルベック市のように訪問看護婦1〜2人、ホームヘルパー10〜14人のチームに70〜80人の対象者の処遇の判断権をまかす自治体も増えてきている。また、退院患者の「連絡会議」への出席も重要な仕事になっている。

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