デンマークにおける住宅施策について
             デンマーク研究会 関 龍太郎
 
高齢者に対するの施策の中で住宅は益々重要視されてきている。それは施設ケアよりも在宅ケアを重要とする考えになればなるほど強くなると考えられる。今回は高齢者福祉のすすんでいるデンマークの住宅施策がどうなっているかみてみよう。
1.デンマークの住宅施策
 デンマークの高齢者住宅政策の基本は、「高齢者が自らの独立した住宅に可能なかぎり住み続け、住み慣れた環境で生きてゆけるように配慮すること」である。日本のように、独り暮らしだから、食事が作れないから、障害があるからというという理由だけで持って「養護老人ホーム」に入所するということはない。日本であったならこの人は老人ホームに入っておられるであろうと考えられる人の多くが在宅でケアを受けながらひとりで生活をしていた。ひとりで生活出来るように高齢者とか障害者にとって暮らしやすい住宅の整備と町づくりがされている。
それを可能とするひとつとして、1987年には「高齢者住宅法」が制定された。「高齢者住宅」は新しい概念で持って統一された。1980年頃までは、老人ホームを8ー10畳の個室に住み共有部分で生活するという「住宅型の老人ホーム」でよい考えられていた。日本の現状の4人部屋からすると個室というプライバシーの尊重されただけでも老人の人権を考えたホームであると1989年にデンマークを訪問したときは思っていた。しかし、その後、デンマークではしだいに24時間のホームヘルプや看護サービス体制が整備され、自宅でこれらのサービスが受けられることが可能となった。1987年の法改正によって、「プライエム(デンマーク語でナーシングホーム、老人ホームの意味)」の新設を認めなくなった。このことは、一般住宅で高齢者が住み続けれるようにするという「在宅中心の施策」に変更されたことを意味する。日本はどうであろうか。日本の住宅で高齢者とか障害者が一生住み続けられるであろうか。否、誰もが、自分は年をとっても、自宅でこどもとか嫁に看てもらわなくて過ごすことを考えいるであろうか。男性は妻に看てもらうというかもしれない。では、女性はどうであろうか。夫に看てもらうのであろうか。どちらかが早く死ぬ。平均的には、女性が男性を看ている。しだいに、日本でも複合家族は減り核家族が増えてきている。
 この際、日本の住宅は問題が大きい。はじめて経験する高齢者社会の中で住宅の問題は多い。では、デンマークでは、どうであったのであろうか。デンマークでも、水準に満たない住宅に住み続けている高齢者も多かったため、従来の住宅を高齢者向け住宅に標準化する必要もあったのである。日本でも高齢者になっても住める住宅の建設の理念の普及に務めるべきを時にきている。
 高齢者住宅とはなにをいうのであろうか。高齢者住宅とは高齢者および障害者用の設備があり、「高齢者住宅法」の規定による融資を受けている住宅を指している。一般住宅でも、住宅改造により条件を満たせば高齢者住宅とみなされている。デンマークでは高齢者住宅の設備に関しては、義務事項を規定している。@住宅の規模は2ルームに玄関、トイレ、浴室、台所を備える。ここでわざわざ2ルームといっているのは施設ケアのプライエムが個室とはいえワンルームであることの反省でもある。Aバリアフリー環境にする。車椅子の使用を可能とする。B緊急時対応を出来るようにする。緊急時の通報システムを組み込む。Cその他。 高齢者住宅の立地や設備内容は地域の実状に応じて各市により行われている。デンマークには、約230万戸の住宅が存在するが、3戸に1戸は60歳以上の人が住んでいる。65歳以上の人で子供と同居する人は3%といわれている。助成を受けた高齢者向けの特別住宅に住んでいる高齢者は約1割である。その他の人はさまざまの住宅に住んでいる。所有関係からみると持ち家、借家がそれぞれ半数の割合いである。
 デンマークの高齢者住宅は、さまざまな層に対して多様な概念を持って供給され、次のように整理出来る。
@年金受給者住宅
 通常の集合住宅のなかにあり、ほとんどは自立して生活する住宅である。ホームヘルパーのサービスは受ける。
Aケア付き高齢者集合住宅(シェルタード・ハウジング)
 呼べばすぐ来てくれるスタッフの援助と、家事援助があり、これらを利用して自分の高齢者向けの住宅である。食事は共同のレストランでする。しかし、台所もある。ここはプライエムと異なる。
Bプライエム
 要介護高齢者のための施設で、「スペース」の確保、プライバシーの配慮がされている。すべて個室(10ー15平方メートル)で、日本と違って家具を持ち込むことが可能である。トイレ、シャワー付きである。
 
2.デンマークの住宅改造システム
 住宅改造のシステムは作業療法士(OT)とか訪問看護婦が窓口になっています。作業療法士が住宅改造とか補助器具の必要かどうかを調査に行く。その結果を作業療法士とソーシャルアドバイサ゛ーと上司が話し合って、住宅改造の必要な箇所と改造内容のリストおよび必要な補助器具のリスト作り、工事をするテクニカルサーピス課と補助器具センターに送る。市役所のテクニカルサーピス課には公務員の大工とか左官がおり、直接工事を担当するか業者に発注する。このことを図示すると表1.図1のようになる。
 このような改造の費用をどのくらい利用者は負担しているのでしようか。これも、市によって違うようですが、私たちの訪問したグラズサックセ市では、200クローネ(約4000円)までは自己負担がいりますが、それ以上はどんなに費用がかかっても、必要なものは公費で負担するのが原則ということでした。1万クローネ(20万円)までの補助器具の購入、住宅改造の判定は現場職員である作業療法士にまかされているようです。この点も日本と違います。日本では杖一本買うにも、複雑な手続きと診断書が必要です。それに下限を決めていて、それを越すと市が全額負担するというのも、日本では見られません。日本では、必然的に経費との兼ね合いで住宅改造が後込みになりがちですが、デンマークでは関係者が純粋に判断できるわけである。
 水野らは1991年にコペンハーゲンを訪問し住宅改造マニュアルがあることを報告している。マニュアルには、補助器具、住宅改造箇所のリスト、利用が病院・総合福祉センター・ケアセンターのどの機関を通して行われるのか、費用負担について等が記載されている。その一部を示すと表2のように改造箇所、改造内容が細かく記載されている。水野らはデンマークのから学ぶべき点として、洋式住宅がハンディキャップトに強いとか福祉器具が充実しているといった物理的な条件や福祉水準の日本との違いを抜きにしてもあると指摘している。すなわち、住宅改造に取り組む社会的システムの点からも多くの学ぶべき点がある。まず、改造内容が単純かつきめ細かく整理されマニュアル化されていること、第2に改造費用の助成制度が充実していること、第3に改造の必要が生じた人がスムーズに高齢者総合福祉センターとつながる仕組みがあること、そして、ひとり一人にトータルなサービスを提供することをめざして、医療・保健・福祉・建築を結ぶコーディネーター役としてソーシャルアドバイザーという職業が確立していること、などを指摘している。
 
3.デンマークの住宅改造の周辺
デンマークの住宅改造の周辺を今一度みてみよう。デンマークの高齢者福祉の基本的理念としてある高齢者福祉の三原則がある。多くの政策やサービスはこの三原則に照らして行われている。生活の継続性、自己能力の活用、自己決定権である。
@施設ケアから在宅ケアへ
1987年の法改訂で在宅ケアへの方向性を打ち出している。そのためのシステムが作られ、各市において着実に実行されている。デンマークに行く度に各市の数字が在宅の方向性に向いている。しだいに、施設の職員が在宅ケアの職員にかわっている。しかし、いずれにしても、今の職員の数を維持するということはされている。したがって、今の職員の数を知る事は日本の今後を考えるとき参考にすべき数字である。少しデーターは古くなったが、1989年現在のデンマークの高齢者福祉サービスの資源をみると表3のごとくなる。これによると65歳以上の高齢者の6.4%がプライエムを利用し、3.4%がデイセンターに通い、6.5%がなんらかの高齢者住宅に入っている。また、県立補助器具センターは17ヶ所、県立リハビリセンターが222ヶ所ある。そして、約14万人(フルタイムで10万人強)の職員が高齢者福祉で働いている。日本の現実として、この数字がいかに大きい数字であるかは誰がみても明かである。
A補助器具センターについて
デンマークには、各県に必ず1ヶ所づつ「補助器具センター」がある。例えば、西シェランド県立補助器具センターには3000種類の目を見張るばかりの補助器具が展示されている。ただ展示が多いばかりでない。素晴らしいのは補助器具の改造、新製品の研究開発、製作へのアドバイスである。さらに、住宅や職場の改造から公共住宅建設時のアドバイスまで行っていることである。10名の専門的なスタッフがいて補助器具のノウハウを指導し、製作改造をしてくれている。
B24時間の在宅ケアの確立
24時間のホームヘルパー、訪問看護婦、補助器具による在宅ケアが行われている。その一例をみると表4のようになる。このような体制にあってはじめて、在宅ケアがいわれているし、住宅改造が問題になっている。安易に住宅を改造すれば良いという問題でないことは誰れもが認識すべきであろう。
 
(参考論文)
@水野弘之ほか、デンマークの住宅改造システム、ふれあいの輪、65号、p26ー29、1992.5.
A水野弘之ほか、住宅改造マニュアルについて、ふれあいの輪、66号、p26ー29、1992.6.
B中大路美智子、デンマークの高齢者住宅の仕組み、ふれあいの輪、67号、p28ー31、1992.7.
C林玉子、住宅が医療の場に、病室が生活の場に変わった、ニッケイヘルスケア、p100ー104、1990.6.
D伊東敬文、デンマークの高齢者福祉医療対策、エイジング総合研究センター、1991.11.

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