P r e s e n t
「う〜ん、どうすればいいのだろうか?」
シアルフィ城の書斎でオイフェはグルグルと行ったり来たりをして何かに悩んでいました。大の大人がこれ程悩む事はきっと相当な事なのでしょう。とにかく必死になって考えていました。一体何を?その為にはオイフェの言葉を聞いて推理するしかないでしょう。というわけでしばらく彼の発言に耳を傾けてみましょう。
「3年前はあれだったし、2年前はあれだったし、去年は・・・ああ!」
…どうやら毎年この時期に頭を悩ませている問題の様です。公主が悩むのは毎年の農作物の収穫高の出来なのでしょうか?それとも民衆の暮らし向きなのでしょうか?とにかく亡きシグルドが本来ならば治めたはずのシアルフィ。それを運命か、自分が背負う事となりました。今は亡き主人に報いる為にも頑張らなければなりません。今回は何に頭を痛めているでしょうか?いやはや公主というのも大変なお仕事です。
「何をプレゼントすればフィーが喜ぶのだろうか?」
…え?今何と仰ったのですか?
「まずい、もうフィーの誕生日まで1週間もないというのに・・・」
…前言撤回。あくまで私的な悩みだった様ですね。断片的にオイフェの話をまとめると、こういう事になります。
オイフェの妻フィーが19歳の誕生日を迎える。オイフェは何をプレゼントすればいいのか迷っている(彼の頭には服・指輪・花と3つくらいしか考える物がなかったが、もうそのプレゼントはこれまでの誕生日に渡してしまっているし、ネックレスなどは戦時中にプレゼント済み)。そうこうしている間にその日は1週間後。これは大変です。
「う〜ん…う〜ん…」
元々女性にプレゼントをするという経験がフィー以外には皆無と言ってもよかったのでこういった事が一番弱い公主様。しかしフィーはこれからも共に過ごしていくパートナーなのだからできるだけ喜んでもらいたい。その為には考えるしかないのです。
「む〜〜〜〜〜…」
遂に机に額を擦り付けて悩むまでに至ってしまいました。このままではこちらも気が滅入ってしまいます。というわけでここは一旦オイフェがいる書斎を離れて、フィーがいる中庭に目を向けてみましょう。人間、少しは気分転換も必要です。
「もうすぐで19か〜ふふふ、やっと…になれるな〜楽しみ!」
フィーは中庭の中央に位置する噴水を見ながら1週間後の自分の誕生日を楽しみにしている様です。何になれるかがちょっと気になりますが、これはまた後で。何故か?それはこれがこの話の焦点だからです。よって、今この段階でお話するわけにはいかないのです。
「でもオイフェさんの事だからもうそろそろプレゼントする物が思い付かなくて今頃書斎辺りで悩んでいたりして…」
…さすがは結婚して4年目です。世間でもそこまで人生を共にしていれば一通り夫の行動は掴む事はできますが、ここまで性格に掴むのは相当な事です。それはやっぱりオイフェが単純だからなのでしょうか?
「でもそうなると今年からは本当に楽しみになってくるな〜オイフェさん、何をプレゼントしてくれるのかな〜?」
どうやら今後の誕生日はこれまで以上の楽しみが伴っている様です。プレゼントされる物も楽しみなのですが、それをプレゼントするに至ったオイフェの苦労をも味わいたいと思っているのです。これは別にオイフェをいじめたいという事ではなく、普段はシアルフィの事を考えている彼がフィーの為だけに頭を悩ましてくれる事がフィーには堪らなく幸福と感じるからなのです。
さてさて、そうこうしているうちに3日が過ぎました。フィーの誕生日まであと4日。オイフェに何か良いアイデアが生まれたのでしょうか?早速彼のいる書斎に向かってみましょう。
………
おや?書斎にオイフェの姿がありません。普段仕事人間の彼が書斎にいないという事は休憩でもとって中庭にでもいるのでしょうか?
………
中庭にもいません。では、どこにオイフェはいるのでしょうか?…ん?
「あちちちちちちちちっ!!!!」
今、オイフェの叫び声が聞こえてきました。そちらに向かってみましょう。
「大丈夫ですか、オイフェ様!!今、薬を持ってきます!」
と、白い服を身にまとった家臣が1人、ある部屋から飛び出してきました。その部屋とは厨房。一体どうして公主のオイフェがここにいるのでしょうか?
「ふぅ〜ふぅ〜…」
オイフェは右手に息を吹きながら手を振っていました。その右手の人差し指は赤くなっていて、その先には鍋が転がっていました。どうやらオイフェはここで何か作っていて火傷を負ってしまった様です。
「本当に大丈夫ですか?」
1人のコックが心配そうにオイフェを見ます。
「あ、ああ…大丈夫。しかし、慣れない事はする物じゃないね。この年になるとなかなか体が憶えてくれないよ。」
「いえいえ、2日でここまでお出来になる事は凄い事と思います。」
「おいおい、煽てても何も出ないぞ。」
と、笑いながらも人差し指を水で冷やしました。すると、先程厨房から飛び出していたコックが戻ってきました。
「オイフェ様、薬をお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。助かるよ。」
オイフェはそう礼を言うと、コックが持ってきた薬を指に塗り、その上から絆創膏を巻き付けました。すると、
「さて、続きを教えてくれないかな?早くしないと忘れてしまうだろうし、グズグズしていたら間に合わなくなるだろうからね。」
と、料理長の方に向きました。
「え?よろしいのですか?」
「構わないよ。ビシバシ教えてくれ。」
「はい、かしこまりました。」
…どうやらオイフェは何かを厨房で作ろうとしている様です。お気付きの方もいらっしゃるのかもしれませんが、それはまた後の話としましょう。何故かって?これもこの話の焦点だからです。すぐにお話しますから少しお待ちくださいね。
そして遂にフィーの誕生日当日となりました。おそらくフィーの事ですから早起きしてオイフェの下へ…行っていません。フィーは自分の部屋の窓から外を眺めていました。そして着ている服装もドレス。実はフィーは朝から自室でドレスを着て待っておく様にとオイフェから前日に言われていたのです。ですから、今日は朝から外には出ていません。活発なフィーが言う事を聞くのは外に出るよりも、オイフェが一生懸命考えた自分へのイベントが楽しみだったからです。だからフィーは朝からもうご機嫌です。時折、彼女の部屋からは鼻歌も聞こえてきます。もうノリノリの様です。
「早く呼びに来てくれないかな〜?」
そう言いながら来たるべきその時を待っていました。そして遂に!
『トントントン』
と、彼女の部屋のドアをノックする音が聞こえてきました。フィーは、
「は〜い!!今行きます!」
そう言いながら、急いで窓を閉めて小走りでドアへ向かいました。ドアを開けるとそこには家臣の一人が立っていました。恭しく頭を下げるとこう言いました。
「フィー様、オイフェ様が食堂の方でお待ちです。」
「食堂?」
「はい、食堂でございます。」
そう言うと、家臣はフィーを促しました。『?』が頭に浮かびながらもフィーは家臣の後に付いて行きました。
「どうぞ、こちらでございます。」
と、家臣は食堂の前に立ってドアを開けながら言いました。フィーは促されるままに中へと入ると…
『パンパンパンパン!!』
盛大な音で食堂が支配されました。
「きゃ!」
いきなりの音でフィーは驚いてしまいました。少し混乱しながらも辺りを見回すと、シアルフィの家臣という家臣が食堂にいました。そしていつもは長テーブルと何脚かの椅子が置いてある食堂も数多くの丸テーブルが置いてあり、そのテーブルの上にはいくつかの料理と飲み物が用意されていました。
『フィー様、誕生日おめでとうございます!!』
家臣が皆、声を揃えてフィーへ祝いの言葉を紡ぎました。ここでフィーもようやく事態が飲み込めた様です。そう、今までは質素に祝っていた誕生日と違い、今年は皆で盛大に誕生パーティーをしてくれるのです。そう分かるとフィーは嬉しそうに皆へ、
「皆、ありがとう!!」
と、感謝の言葉を言いました。すると、家臣の中から礼服に身を包んだオイフェが出てきました。
「フィー、19の誕生日おめでとう。」
と、微笑みながら静かに言いました。
「オイフェ様、ありがとうございます。」
恭しくスカートの端を持ちながらフィーは挨拶をしました。公の場ではできるだけ「様」という様にオイフェから言われていたので、ここではちゃんと「様」と言ったのです。それでも気を許すと「さん」になってしまうのですが。
こうしてフィーの誕生日を祝うパーティーが行なわれました。場に置いてある料理の数々も気持ち盛り付けが雑でしたが味の方は抜群でした。フィーがその中で特に気に入ったのは料理はシレジアでも普通に食べられていた鶏の香草焼きでした。フィーは近くにいた料理長に後で自分でも作ってみたいと思い、この料理の作り方を聞こうと近付きました。何しろシレジアにいた頃は自分の槍の技術を伸ばす為に料理らしい料理をした事がなかったのです。
「あの〜料理長。この鶏の香草焼きの作り方を教えてくれないかしら?」
すると、料理長の口から驚きの事実をフィーは知ったのです。
「ああ、それでしたらオイフェ様に聞かれるのが一番だと思いますが。」
「え?オイフェさんに?どうして?」
あ、また「さん」付けになってますね。
「あれ?お聞きになってらっしゃらないのですか?」
「え?」
「今日のこの場に置かれている料理は全てオイフェ様がお作りになったのですよ。」
「ええ!!」
「オイフェ様の手をご覧になってください。それが一番の証明になると思いますよ。」
その言葉を聞くや否や、フィーはオイフェの元に駆け寄りました。そんなフィーに気付いたオイフェは喋っていた家臣を少し制してフィーの方に体を向けました。
「フィー、どうし…」
オイフェが全てを言う前にフィーはオイフェの右手を取りました。その手は料理長の言っていた証明、絆創膏や切り傷があったのです。
「オイフェさん、これいつから…」
「ん?これかい?慣れない事はするなという事かな?この年になっても学ぶ事があるのは素晴らしいな。」
その言葉が全てを物語っていました。フィーはもう何も言えなくなってしまいました。ただ一言、
「ありがとう…」
パーティーの方も皆にお酒が回ってくるにつれて、段々とくだけた雰囲気になってきました。どの位くだけていたかというと、この席の主役であるフィーがいない事に気付かないくらいくだけていたのです。では、肝心のフィーとオイフェは?その答えは城の高台にあるバルコニーにありました。2人の姿はそこにありました。
「オイフェさん、今日は本当にありがとうございました。凄く嬉しかったです。」
と、フィーは改めてオイフェのお礼を言いました。
「いや、喜んでくれて良かったよ。」
オイフェはいつもの笑顔で返事をしました。
「あの、オイフェさん…」
「ん?」
「料理するっていつ考えたんですか?」
オイフェは頬を掻いて少し困った様な顔をしながら答えました。
「う〜ん、実は誕生日プレゼントは色々考えてたんだけど…」
オイフェはちょっと時間を置いてから、
「全然思い付かなかった!」
と、目を見開き急に大声を出しました。
「…はい?」
状況が掴めずに唖然とするフィー。
「…というのは冗談で…」
と、すぐにオイフェはまた落ち着いた顔に戻りました。フィーは実はからかわれた事に気付き、オイフェの足を軽く蹴りました。
「もう!ちゃんと教えてください!」
「ははは、すまん。ちゃんと言うよ。実はね、1週間くらい前から…」
オイフェはずっと自分が悩んでいた事、物品だと喜んではくれるだろうけど、自分としてはこれまでと同じではいけないだろうと思った事、そしてフィーが喜んでくれる為に自分ができる事は何なのかを考えた事をフィーに話しました。
「…で、思い付いたんだよ。私の気持ちを伝えるのなら何かを作る事だとね。で、料理する事が一番だと思ったんだ。それからは大変だったよ。結構難しい物だな。この不器用な手では教えてくれた料理人達に迷惑をかけっぱなしだった。」
オイフェは一息ついてからまた話を始めました。
「一番作りたかったのは鶏の香草焼きだった。私がシレジアにいた事は昔話で話しただろう?」
と、フィーに同意を促しました。フィーはそれに素直に応えて頷きました。
「その時にね、駐留していたセイレーン城で一番美味しいと思ったのが鶏の香草焼きだったんだ。後になってあれがシレジアで一番よく食べられている料理だと知った。普段の厳しい寒さに耐えたハーブは少ない春に一気に咲き乱れて、その香りも素晴らしい…だからそのハーブを使った料理、特に鶏には良く合ったんだ。」
「それで作りたいと思ったんですか?」
「うん、それもある。でもそれ以上にフィーはシレジアの生まれだ。きっとフュリー殿もフィーに作っていたと思う。だからこそこの料理を作ってみたいと思った。それが正直な所だ。これで納得いったかな?」
その言葉にゆっくりと頷くフィー。そんなフィーを見てオイフェは満足した様な顔を見せた。
「…で、フィーも今まで以上に今日を楽しみにしていた様だが…?」
オイフェの言葉に驚くフィー。
「え?どうしてわかったんですか?」
「君の様子を見ていればわかる。だてに人を見続けてきた軍師をやっていたわけじゃないぞ。」
少し勝ち誇った様な顔をしてオイフェが言いました。
「参ったな〜オイフェさんには嘘つけないな〜じゃあ、正直に言いますね。」
「ああ。」
「突然ですけど、オイフェさんっていくつですか?」
「ん?…年令かい?38だが?」
「オイフェさんが38で、私が19。やっとオイフェさんの半分生きましたね。」
「ん?…ああ、それでか!」
オイフェはある事を思い出しました。2人が知り合った遠くイザークでの出来事を。フィーがまだ解放軍に入りたての頃、何も考えずに敵の中に突っ込んでいったフィーに叱り付けた時の事を。その時の言葉は今もフィーは覚えている。
『君はまだまだ未熟だ。何も考えずに突っ込んでいくのは愚策でしかない。まず多くの経験を踏む事を覚えなさい。反論したかったらせめて私の半分は生きてからにしなさい。それまではまず自分を大事に、そして軍師である私の言う事を聞きなさい。それが君の命を守り、ひいては数多くの人の命を救う事になるのだからね。』
これが今もフィーの脳裏から離れない言葉だった。
「いつも私に言ってましたよね。『君はまだ私の半分も物がわかっていない。』って。でも年令だけは半分になりましたよ。後は知識だけですね。」
「そんな事を気にしていたのか。」
「そりゃあ、あの頃は結構傷ついたんですからね。だから今年の誕生日は楽しみだったんです。半分は生きましたよ、って言いたかったんですからね!」
人差し指をオイフェに向けて指しながらフィーは言いました。
「ははは、悪かったよ。そうだね。フィー、君も一人前の女性だ。認めるよ。」
と、ニッコリ笑いかけました。その笑顔にフィーもつい笑い返してオイフェに抱きつきました。それを受け止めるオイフェ。ところがフィーからは見えなかったのですが、オイフェが何かに気が付きました。そして少し意地悪そうな顔をすると、
「でもね、フィー。」
と、眼下のフィーに声を掛けました。
「え?何ですか?」
「私が誕生日迎えたらまた君は私の半分も生きていない事になるのだよ。」
「あ!!」
フィーは顔をガバッと上に上げ、オイフェの顔を見ました。そんなフィーの頬にオイフェは微笑みながら右手を当て、
「フィー、君もまだまだだね。」
と、優しく声を掛けました。
「う………は〜い、頑張ります。軍師様。」
『オイフェさん、その顔はズルイですよ。何も文句言えないじゃないですか。』
フィーはそう思いながらまたオイフェの胸に顔をうずめました。そんな2人に風の精霊達は優しく見守っているのでした。もしかしたらこれこそがフィーにとっての最高のプレゼントだったのかもしれませんね。
と、こんな感じで幸せな2人なのでした。これ以上あてられると何ですのでここでこの話を終わるとしましょう。2人に、シアルフィに、グランベルに、そして全世界に幸せが平等に訪れますように。聖戦士の紡ぎが消えない様に。
〜fin〜
※この話はグラン歴781年の話でオイフェ、フィーの年令は大沢版FEに準じて解放軍蜂起のグラン歴776年6月当時それぞれ33、14としています。ちなみに自己設定でオイフェは1月生まれ、フィーは5月生まれとしています。
第2作に当たる今回もオイフィーと既に私の好みが固定化してしまった作品でした。剃刀の次は誕生日ネタ…話題の上ではある意味王道かも(笑)最近気付いたのですが、オイフェさんってセリス達を養う為に絶対料理してるはずですからこの話は本来矛盾ではないか?と思う様になりました。そこで勝手に設定を作ります。セリス達を養っていた時の料理はいわゆるおふくろの味(男が作るけどおふくろの味)で、今回は高級料理(バーハラ料理とでも名付けるか・安易)を作ったという事で納得してください〜(無理矢理)
2001/6/21 執筆開始
2001/7/ 1 執筆終了
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