約 束 の 季 節
春になったら必ず迎えに行く。
そう言ってあなたは新しい世界へと向かって行った。
私もまたやるべき事をしなければならなかった。
それはわかっている。
でもどこかに澱んだ心がある。
あなたはきっと私を迎えに来る。
それはわかっている。
今は異なる道を歩んでいる私とあなた。
でもそれはいつか同じ道を歩める日が来る為の準備。
それはわかっている。
・・・でも
その季節がやってくるのか不安になる私がいる。
本当にあなたは迎えに来てくれるのか?
冬に閉ざされたこの世界で私は1人立ち尽くす。
見上げるとそこには満天の星空。
あなたもこの夜空を仰いでいると信じて。
私はあなたを待ち続ける。
いつまでも…
春になったら必ず迎えに行く。
私はそう言って君を故郷に戻してしまった。
本当はすぐに君を連れて行きたかった。
しかし心の中でそれを否定する部分があった。
どうしても…
私の心の中には未だに無念と復讐しか住み着いていない。
君の心は空の様に青く澄み渡り、そして白馬の様に清らかで…
この相反する心が果たして同じ時を刻んでもいいだろうか?
そう思うと私には行動を起こす勇気など振り絞れなかった。
その間に君に相応しい人が現われれば…
そう思う事もある。
でもきっと君はこんな私を待ち続けるだろう。
そんな情熱的な君に私は惹かれたのだから…
それでも、それでも…
ああ、私は何と不器用な人間なのだろう?
冬の夜空を見上げる。
君もきっとこの空を見上げているのだろう。
こんな不器用な私を想いながら。
ある時、君は言った。
あなたはとても強い、と。
違う。
私は君が思う様な強い人間ではない。
いつまでも昔を思い、前進すらままならない。
強ければ君をすぐに迎えに行っているはずなのに。
どうすればいいのだろう?
誰か、誰か教えてくれ…
春が近付いた頃、私は一つの夢を見た。
あなたの夢を。
一人悩んでいるあなたの姿。
何故一人で悩んでいるの?
楽しい事も、悲しい事も、全てを共有したいのに…
あの時の約束。
春になったら迎えに行くという約束。
約束の季節まであと…少し…
春が近付いた頃、私は一つの夢を見た。
君の夢を。
私を想ってくれているのか?
深緑の瞳からは一筋の…
声を掛けたかった。
でも、最初の言葉が出てこない。
そんな時だった。
迎えに行ってやれ。
背中から聞こえた忘れる事の無い声。
ああ、あなたはこんな時にまで…
未だに未熟な私を導いてくれるのですか?
今ではあなたよりも年を重ねてしまったこの私を。
でもその声で私の心には…
そう思った時、私は立ち上がれた。
ありがとうございます。
最後の最後までご迷惑をお掛けしました。
私がそう言うとあなたは微笑み、そして消えていった。
本当に、本当に…
春になった。
この地にも新しい息吹が生まれていた。
でも、それを見届けている事を意味するのは…
春になっても、私はここに一人でいるという事。
ああ、早く…早く…
私はこの積み重なった想いで押し潰されてしまう。
両手でこの身を抱き締める。
早く…早く…
そして…
遠くから馬の疾走する蹄の音が…
私は思わず出窓から身を乗り出した。
ああ、やっと…やって迎えに来てくれた…
ようやく私はここにやってきた。
その昔訪れた、この場所に。
そう思いながら手綱を握る。
そして、遂に…
君の姿が見えた。
満面の笑みで君は私に向かって大きく手を振った。
本当にすまない。
そう思いながら私は君の下へ行く。
君はすぐに私に抱き付いた。
一言、二言…
それだけで十分だった。
大丈夫。
もう君を離さないから。
それが私とあなたと君への誓い。
…二人の季節は必ずやってくる。
二人で歩んで行こう。
それが今の季節、約束の季節…
〜fin〜
今回はオイフェとフィーの心情を書き綴った作品にしてみましたが、
如何でしたでしょうか?結構こういう形態は書き直す事が多くて、こ
れは確か4回くらい書き直した記憶があります。でも書き上げた時は
凄く嬉しかったです。オイフェが捕らわれていた過去もここで清算で
きたんじゃないかな?と思っています。ご拝読ありがとうございました。
2001/10/29 執筆開始
2001/11/ 4 執筆終了
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