高齢者福祉の原点「ホルベック」                              デンマーク研究会 関 龍太郎  

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一.在宅福祉だけで、高齢者福祉対策はどこまで可能なのか

 一九八八年改革のポイントは、高齢者委員会の答申に基づいて、高齢者福祉の三原則(@自己決定の尊重、A生活の継続性、B自己資源の活用)を徹底するとともに、財政面からもそれまでのやりかたを見直すことであった。

具体的には、次の三つであった。

 

()ホルベックでは、それまで建設を進めてきた「プライエム」(特別養護老人ホーム)の建設をやめるとともに、市ですすめていた施策を五地区の「総合福祉センター」に分権化した。

 

()在宅と施設を総合化した。看護婦二人とホームヘルパー一三人で構成するチームで、原則的に八〇世帯の対象者をケアする。一八チーム(二〇〇三年現在、一九チーム)が、在宅および施設のケア対象者を看る。昼間勤務、準夜勤務、深夜勤務の体制を、病院の病棟と同じようにつくり、「二四時間在宅ケア体制」を確立した。

プライエムを一九九五年までにゼロにする計画を一九九〇年に立てた。この背景には、プライエムが長期滞在施設になりつつあることと、高齢者人口が増加し、九五年には「プライエム」をさらに九〇床増設の必要性があることがあった。経費の面では、高齢者ケアの全体の経費が二倍になると推定されたことにある。

 

()住民参画の拡大。以前から「プライエムの利用者委員会」が存在していたが、八九年頃から「在宅と施設の利用者委員会」「アクティブセンターの利用者委員会」となっていった。

 

 二〇〇二年、二〇〇三年の二回の訪問調査結果から、一〇年間の改革を総括してみると、@施設福祉をゼロにし、在宅福祉だけで高齢者福祉対策をするのは難しい。特に、増加しつつある痴呆対策では、どうしても施設福祉が必要である。A元気老人対策が重要。そのためにはボランティアも活用する。B住民の参画を、もっともっと重要視すべきである、 であった。「高齢者福祉の三原則」を基本にすることには変わりがないが、更なる改革が必要であるということであった。

 

 今、次の五点を改革しようとしている。

()利用者委員会の重視

一九八八〜一九九二年の訪問では、どのプライエムにも「利用者委員会」が設置されているのに驚き、プライエムの運営(例・・・プライエムの絵の購入、キヨスクの運営、従業員の採用)に「利用者委員会」の意見が反映しているのに感心したが、二〇〇三年では、利用者委員会が「アクティブセンターの利用者委員会」という地域の利用者委員会になっていた。すなわち、プライエムという施設に限定するのでなく、地域の高齢者総合福祉センターの全体に関わるという形である。高齢者総合福祉センターは、エルシノア(五八,〇〇〇人)で三カ所、ホルベック(三四,〇〇〇人)で五カ所ある。さらにホルベックでは、市全体の利用者委員会もあった。各地で利用者委員会の委員長に会い、意見交換をしたが、エルシノア、ホルベックともに、各地域の「アクティブセンター」の運営についての話が中心であった。また、特にエルシノアでは、市役所の職員をアクティブセンターの運営から引きあげるという提案がされていた。これに対して利用者委員会委員長は反対の立場をとっていた。次回の訪問の際にどうなったか確認したい。

 

()利用者の選択権の重視

在宅に施設の良さを、施設に在宅の良さを求める目的で、在宅と施設の垣根を取り払う改革が八八年にあり、「在宅と施設の一体的な運営」が強調されたが、今回の〇三年改革では、

ホルベックでは施設ケアと在宅ケアを分離し、「在宅ケア」に対し民間参入をする。これは、一九八八年〜九二年の改革で実現した「施設と在宅の一体的な運営」よりも「住民のサービスの選択肢の多様化」を重要視した結果である。

 

()判定とサービスの分離

二〇〇三年改革でホルベックでは「判定部門担当」を別に設置する。これは一九八八年〜九二年で実現した、「分権化」、すなわち出来るだけ効率的なケアを運営するために現場スタッフである「在宅ケアチーム」に判断を任すという考えを改めるものである。現場スタッフは情に流され、高齢者の意見を聞きすぎているのではないか、その結果、「平等性」が失われているのではないのかという懸念である。

これに対して、ホルベックの高齢者福祉課長もエルシノアの看護主任も「平等性は失われてない。現場にまかさない方が問題だ」と疑問を呈していた。

 政権が変わり、方針が変わったので、変更しねばならないが、疑問が残るというホルベックの高齢者福祉課長の発言は印象的であった。

 

()高齢者福祉で働く人口の増加。

今まで、訪問した人たちの報告書をもとに高齢者福祉の推移をみると、人口三万三千人、原則として六七歳以上、四,一七一人を対象にしている「ホルベック」では、

 

◎一九八九年

在宅一五四人、施設二三九人 計三九三人

●在宅・・看護婦二一人、ヘルパー一二二人、OT・PT一一人

●在宅ケアチーム(原則として看護婦二人とヘルパー一三人で構成)は一八チームでスタート

●施設・・プライエム四カ所(二五二個室)スタッフは二三九人(看護婦三五人、OT・PT寮母等九一人、趣味一人、事務掃除調理九九人、その他一三人)

 デイ(一日一〇人)、

 高齢者住宅五〇〇世帯(〇という報告もある)、ケア付き住宅二四世帯

 

◎一九九三年

ホームヘルパー二二四人、訪問看護婦三八人、保健婦九人、その他不明。

施設と在宅の垣根をなくす試みが始まっていた。在宅ケアチームは一八チーム、五つの総合福祉センターを拠点(ここには、在宅ケアチームの一部の詰め所およびデイセンター、談話室、キヨスク、ボランチティの控え室等がある)に活動していた。

プライエムは九〇室に減少、ケア付き住宅一八戸、高齢者住宅二二〇戸

 

◎一九九九年

高齢者福祉に働くスタッフは五四一人、うち、ヘルパー三〇〇人、うち、施設が六〇室、スタッフ六〇人で残る(痴呆対象の為)

在宅ケアは、夜間在宅はヘルパー三人で一五世帯、準夜勤ヘルパー九人、三チーム、昼は在宅ケアチーム(看護婦二人、ヘルパー一〇〜一五人)一八チームで対応

五つの総合福祉センター

◎二〇〇三年

 パートを含めると六五〇人、一九チーム、利用者一三四四人、九一六一時間

施設が一一〇人と増えている・・・痴呆用グループホーム

高齢者住宅 二五〇戸

五つの総合福祉センターはある

利用者委員会の運営するアクティヴィティセンターはますます盛んとなっている。

 

 このように見ていくと、二五二室あった「プライエム」の個室は、ゼロになっていない。それに代わるものとして二四時間ケアをするグループホームがある。痴呆の高齢者を対象の「グループホーム」が、九九年には六〇戸あったが、二〇〇三年には一一〇戸と増加している。これ以外に、高齢者住宅が、二五〇戸ある。しかし、これを施設といわず、住宅の一形態としている。したがって、二〇〇三年時点では、在宅ケアのチーム(一九チーム、看護婦二人、ヘルパー一三人で構成)は、高齢者住宅に住む高齢者も含めて、一,三四四人を対象に、「二四時間在宅ケア体制」を実施している。この他、アクティヴィティセンターやリハビリ施設を充実することで「在宅強化の方向」は貫かれている。また、補助器具については、県に一カ所の「補助器具センター」が存在するとともに市役所とか総合福祉センターに「補助器具倉庫」があり、リサイクルも行われている。九二年頃の「施設と在宅の統合化」(五カ所の総合福祉センター構想)によって、在宅の職員と施設の職員の区分が出来なくなった。さらに、二〇〇四年頃から、グループホーム、高齢者住宅以外の高齢者への在宅サービスに民間参入がされることから、これらの数字はさらに曖昧になると考えられる。それでも、日本と比較すると、施設は二倍近くあり、在宅には一〇倍のスタッフが働いているということになる。

 

()利用者委員会の発展

 利用者委員会は、最初プライエムの利用者委員会であったが、しだいに総合福祉センター全体、特にアクティブセンターの利用者委員会となっている。

ホルベックとエルシノアの総合福祉センターで利用者委員会委員長の話を聞いた。主な内容を列記する。

 

@プライエムの利用者委員会であったが、一九八八年以来検討され、一九八九年に、アクティブセンター等の総合福祉センターの「利用者委員会」を作った。二〇〇二年現在エルシノアには三つの総合福祉センターがある。また、ホルベックにはリハビリのセンターに二〇〇三年現在、島(人口八〇〇人)を含めて、五つのセンター共同の利用者委員会もある。

 

A運営予算は、ほとんどがタクシー代、企画、セミプロ費であり、総合福祉センター(ステンフスバッケン)では、二〇万円が事務費で残り、一八〇万円が上記のタクシー代等である。

 

B利用者委員会理事会は五〜九名で構成、ホルベックは七名、月一回開催、議題は二週間前に予告、前回の決定事項の確認から始まる。利用者委員会に施設長も参加している。職員はキヨスク以外で一八名いる。また、各市に高齢者の代表で構成される「高齢者委員会」が設置されており、「利用者委員会」や「議会の福祉委員会」と連携しながら活動している。利用者委員会のメンバーは選挙によって選出される。任期は二年。なお、高齢者委員会も選挙で選出され、高齢者九名で構成されている。利用者委員会も高齢者委員会も住民参加として評価すべきである。特に高齢者委員会は、議会以外に高齢者の意見を聞く形であり、高齢者問題を行政が重要視していることの「具体的な担保」として評価すべきである。

 

C「利用者委員会」の内容は次の活動の企画をしている。

ビリヤード、トランプ、他への委託内容の検討グループ、庭づくりグループ、鶏飼育グループ、ケーキ作り、パン作り、午後のコーヒー、キヨスク運営、ティーハウス、コーラス、猫たたき、礼拝。

 

D年間の活動の主なものは次のとおり。

 ファッションショー、音楽会、ビンゴ会、映画、クイズ、イースター、クリスマス、夏至、魔女焼き、遠足、入所者歓迎会、痴呆ボランティア(のんびりたのしもう会)。

ビンゴは人気がある。クリスマスは四週間前に集会、夏休みのイベント等

E寄付金がある。六,〇〇〇クローネ(一二万円)

F判定とかサービスに対する「不服処理委員会」がある。メンバーは、高齢者委員会から二名、議会の福祉委員会から二名、その他二名、計六名で構成している

G団体助成金がある、一六団体、九三,〇〇〇クローネ(一八六万円)を受付し現在審査中、

 一団体に一万五,〇〇〇クローネ(三〇万円)が上限である

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