フォルケホイスコーレ自由学校・保育所を訪問して 高齢者福祉のトップへ 

             2003年レポート         デンマーク研究会  関 龍太郎

 1.デンマークってどんな国

 デンマークってどんな国かについては、スタディツアー中もしばしば話題となった。そのポイントを記すと次のようになる。

 ・平坦で、山がほとんどない。九州ぐらいの面積に500万人が住んでいる国、

 ・宗教はキリスト教ルター派、キリスト教は「神の下で何人も平等」という考えがあり、  個人主張は強い。日本は仏教の影響を受け、文化では和を重んじ何事も控えめになり  がちである。

 ・農業国から酪農国へ、酪農王国から工業国へと発達した国、

 ・福祉が発達した国、例えば1992年生活支援法、1999年ソーシャルサービス法

  と言う法の整備もされた国、「医療」は県の責任も「高齢者福祉」は市の責任と責任  分担が明確であり、責任の行政によってサービスの監査、評価もキチンとされている。

 ・年金も、高齢者年金4500クローネ・9万円、障害者年金は12万円、重度24万  円と日本と比較して充実している。個人が社会の中で尊重され、子供が親を扶養する  義務はない。障害者も成人すれば親は子供を扶養義務はない。障害者の生活の支援を  社会がする。

 ・婦人参政権が早い 。1915年である

 ・医療技術は遅れている印象

 ・グルンドヴィ1783-1872によるフォルケホイスコーレの運動(生きるための   学校の運動)がある。以前の対象者は農民であったが、時代とともに高齢者、中学生に  なっている。

 ・ヨーロッパの中心(パリ、ロンドン、アムステルダム、ローマ等)から離れた地理的  条件、

 ・バイキング以来培われた「平等主義」、

 ・資本主義発展のなかでの「合理主義」

 ・職人組合から生まれた「革新政党の活躍、社民党の指導」、

 ・生活するために必要になった保育所、高齢者政策における「女性の活躍」等

  

このような要因が重なった中で、今のデンマークが存在していると考えられる。今回はフォルケホイスコーレについてみてみよう。

 

2.サムソー島のエフタスコーレ自由学校を見学

      フォルケホイスコーレのひとつ

 国民高等学校「生きるための学校」(フォルケホイスコーレ)はデンマークで約95校、北欧で400校、高齢者向けは5校といわれるが、今回のサムソー島で視察した学校は中学3年4年の世代を対象にしたものであった。

 155年前から、農民運動・宗教運動の父といわれているグルンドヴィの指導の学校である。上からの教育でなくて対話で「生きることの自覚」を促すという考えであり、ここでも全寮制である。理念は「対話と共生」であり、入学試験はない     

 デンマークのフォルケホイスコーレは成人教育のための施設であった。フォルケホイスコーレを日本では「国民高等学校」とか「民衆学校」と翻訳され日本に紹介されているが、日本にない学校だけにその意義伝わりにくい。その発端は1844年、敗戦によって荒廃した国土の復興と郷土愛の向上のために、グルンドヴィの提唱され、1851年、クリステン・コルによって設立された。グルンヴィは、ラテン語を学んだ少数のエリートが学び、社会を牛耳っていた19世紀のはじめ、真の民主主義を社会の実現するために、農民の教育が重要と考え、「生のための学校」フォルケホイスコーレを提唱した。当時20代の若者の1割がこの学校に学んだといわれる。時代とともに、教育内容は変化しているが、現在ではデンマークのすべてが私立であり、一定の条件をみたし国の認可を受ければ、国から運営費の85%の補助を受け取ることが出来る。現在ではフォルケホイスコーレに学ぶ理由としては、@自分自身を試すため、A社会人になる準備のため、Bこれからの生活や仕事の準備のため、大学進学への準備のため等が考えられる。設立許可の際、ガイドラインがあり、カリキュラムと校長に関して承認が必要である。

 訪問したサムソー島のフォルケホイスコーレについて具体的に見てみよう。サムソー島の学校は農民でも高齢者をたいしょうとしたものでもなく、中学4年生を対象にしたものであった。私立の中学校である。昨今、世界中が「子供の自立性」を問題にしている中で、このフォルケホイスコーレは注目して良いと思う。既に、他の北欧諸国に波及しつつあると言うことであった。

@近年、義務教育等の学校が統合される(8−10校が1校に)の中で、グルンドヴィの考えを生かしたここのような学校が増えている。原則、1年教育の全寮制の学校である。

Aエリート教育でなく、対話、話し合う教育をめざしている。義務教育の授業以外に、ニーズと自然を生かした学校。学生の自立をめざしている。義務教育以外に、音楽、乗馬、アーチェリー、ヨット、ダイビング、パラグライダー、落下傘パイロット養成の理論(10万クローネ、200万円)、等30科目がある。

B現在は127人の生徒、3人は方針に合わず退学

   ここは14-17歳、全国の他の国民高等学校より若い人を対象ということになる。

C費用は親、国、出身の市が3分の1ずつ、大体18000クローネ・36万円は親の負担である

D27年前に建設、10年前に今の校長がきた。今の校長が赴任した頃は40名と生徒が少なかった。現在、バルト3国が中学3年4年を対象とした同じような学校の開校を検討している。

Eこの学校では、すでに、1200人が卒業している。

F島の特長を生かしてきた。陸・海・空を生かしている。必要経費は2200クローネから10万クローネである

G原則として40週間、2週間ほど特別補講がある・・夏休み中に行う

 ここではないが、フォルケホイスコーレには高齢者のものもあり、期間は2週間で全寮制がある

Hこの学校は、6年前から希望者が多く、待機者が出るようになった。この学校には32の学科の認定試験官がいる。半人分の経費

I8年生20名、9年生、10年生である。学校側としては10年生が欲しい

J職員は32人、半分が教員、管理者は校長、副校長、お母さんのような相談役

K施設内は、禁煙、というのは15歳からタバコは吸って良い

L「将来、どんな仕事をしたいか」と言う質問に、「パイロット」「エンジニア」「振り付け師」「心理療法士」「政治家」「設計士」「調理師」「農業」「観光ガイドかカメラマン」「手話」「動物の調教師」というように、ほとんどの生徒から明確な回答がかえってきた

 

3.エルシノア高齢者の自由学校を見学

      フォルケホイスコーレのひとつ

 2002年に訪問した「エルシノア」のフォルケホイスコーレは高齢者を対象にしたものであった。ここでは、70歳代、80歳代の人が2週間のコースで学んでいた、杖をつきながら先生の前に集まっている高齢者の姿に願激した。日本の「老人大学」が2週間、泊まり込みで開催されている。随分、人気があるようで、全国から応募があるという。学習意欲の高い高齢者が多いと感じた。

 @この学校は全寮制で、55歳以上が対象

 Aこのような高齢者を対象としたフォルケホイスコーレはデンマークには4校あり、全  国から応募がある

 B年間1700人が受講し、1コースは1−2週間(2週間が多い)である。働いてい  るスタッフは30人である。

 C最低週25時間は出席しないと行けない。どうも2週間コースの場合、週20−2   5時間の履修が普通のようだ

 D国からの補助金は必要経費の2分の1程度になる

 Eコースは25コースあり、音楽、彫刻、旅行、デザイン、ダンス、写真技術、デンマ  ーク文学、ビデオ技術、各種スポーツ等多彩である。

 Fここも、入学試験も入学資格もなく、先着順に入学が決まり、寝食をともにしながら、  教師と学生が交流しながらまなぶ学校である。

 G授業だけでなく日常の共同生活から社会人間関係を学ぶ学校である

 H印象的だったのは、杖をつきながらも2週間寮生活をしながら学ぶデンマークの高齢  者の姿であった

  

      

 

4.ムア保育園を訪問して・・・77年名称変更

 保育所が日本と比較して、どのように充実しているかは興味があった。今回、やはり、スタッフは充実していたし、保育という概念の幅広さにも驚いた。さらに、デンマーク語を教える教室があった。また、デンマークでは一人の児童が保育所での保育でも、委託の保育されていても、同じように国、市からの補助が3分の2以上出されていた。

訪問しながら、30年前に、デンマークの病院保育所で「患者の姉妹のための一時保育所」があったことを思い出していた。

@保育所は人口46万人のコペンで500−600カ所、6万人のグラスサックス市で100カ所ある。公的な保育所がほとんどであるが民間もある。

A視察したのはインテグレードした施設・・・総合施設

5つの分野があり、120人が利用している

・乳児保育(0−3歳)

・保育(3−6歳)

・学童保育 1−3年生

・学童クラブ 4−14年まで

・デンマーク語教室、保育園に行かない子供のための「語学教室」

この他、ここにはない程度の高い「ユースクラブ14−18歳用」がある

・0学年学校保育8−13時・・入学前1年間学校の雰囲気になれるために通学する制度

Bソーシャルサービス法(以前の社会支援法)で保育されている

C財源は、親負担は3分の1以下、今のところ25%未満、残りを国と市で折半する。

 内務省と自治体の契約

D待機がある。希望のとこには入れない。1歳児保育が特に足りない

E乳児時代にいると、入りやすい。兄弟姉妹は出来るだけ同じ保育所にしたい

Fしかし、ニーズ判定は市がしている。保育所でない

Gここの良いとこは長時間観察出来るし、親とも交流し、交流を継続しているとこだ

H職員は30名3分の2は3年半の教育を受けた人、3分の1アシスタント、キッチン、掃除等

I5人分の特別措置枠がある。母子家庭、アルコール、麻薬、外国人等の子供の受け入れ留ための処置である。

J分野責任者4人とトップとサブトップで3週間に1回、子供のグループで2週間に1回ミーティングをしている

K学童保育は週一回開く・・・???本当

L年間計画をはっきり「計画書」(文章化)にしておく

M1年に1回、宿泊研修をする

N研修生を受け入れる・・・3−6ヶ月に2人

O3歳−6歳 「22人」から保育所は開設できる。しかし、採算性から困難である

P中には「移動保育所」(森の保育所)もある。7時から集合しはじめ、9時にみんなあつまり森へ行き、3時に帰り、5時に1日の日程を終える

Q保育料は2000クローネ、約4万円

学童保育は1200クローネ、2万4千円

R4−5人預かる「委託保育」もある。0−3歳が多い。いわば昼間の里親制度か。アレルギーを持った子供にはよい。

S病児保育はない。病気なら親が迎えに来るのが当然である。親が仕事を休む。1日目は休み、後休暇をとる・・当然

 保育料

 乳児保育 2320クローネ(46400円)委託保育 2320クローネ(46400円) 

 保育   1770クローネ(35400円) 学童保育 1255クローネ(25100円)

 学童クラブ  10−11歳 480クローネ(9600円)

        12−13  205 〃   (4100円)

        14      50 〃   (1000円)    プラス材料費

1.食事は

乳児には出す、保育園では週4回、

朝と昼とおやつはパンとフルーツ

学童は4950人いるが、予算が100クローネしかなくてきびしい。今日はチキンカレーが14時半に出来る                             朝8時までに保育所にくると、食事をして学校に行く

2. 一般保育 6.15-17.00

 学童保育..6.45-17.30

 学童クラブ12.00-18.00   月水は18.30-20.00

 

5.おわりに

 今報では、デンマークの教育の特徴である「フォルケホイスコーレ」と「保育所」を中心に報告した。何故デンマークのように福祉が発達した国が出来たのか。日本は何を学べばいいのかと言うとき、「教育が大きいとか」「民主主義が発達している」といわれる。今回は、そこにスポットを当てて考え、報告をまとめた。日本でも住民参加がよく話題になるようになった。 しかし、自立に弱く、世間体を気にし、周辺から目立つことを嫌う国民性、「周りあっての自分」の国である。しかし、これからは、それではやっていけないかもしれない。自己主張とか自己決定を主張することが必要な時代になっていきそうである。いづれにしても、デンマークから学ぶことはまだまだ多くありそうである。

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