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◆デンマークの高齢者福祉の2002年以降の変化◆ 高齢者福祉のトップへ

                                  デンマーク研究会  関龍太郎

 

デンマークの高齢者福祉政策をささえるもの・・・(海外社会保障研究、2008春 掲載 国立社会保障人口問題研究所)

 

デンマークにおいても住民からすると、保健と医療と福祉は「統合」されるべきだといわれてきたが、まだ、実現されていない。したがって、保健と医療と福祉が、いかに連携を密にしながら運営されているかは住民にとって大きな課題である。デンマークは、保健、医療、福祉の大部分が、公的機関、公的財源で行われてきたので、「統合的運営」が、比較的容易である国である。著者は、デンマークの高齢者保健福祉政策のスタディツアーに198919901992200220032007年と6回わたり、参加してきた。そのことは、結果的に18年にわたり、日本から、日本と比較し、デンマークの高齢者保健福祉政策をみてきたことになる。デンマークの高齢者福祉について、既に、この雑誌においても、伊東、著者によって報告されている。

デンマークは面積4万3000平方キロメートル、人口約547万人(2007)の国である。65歳以上の高齢者数は約84万人(高齢化率15.4%)、平均寿命77.96(男性75.64歳、女性80.41)、合計特殊出生率1.74である。高齢化率は1960年に10.6%1970年に12.3%198014.4%199015. 6%になり、その後減少傾向にあったが、最近、再度増加の傾向にある。なお、65歳以上の親と子どもの同居率は日本の約50%と比較して非常に低く、6%程度である。

面積では九州、人口では兵庫県とほぼ同じである。最高峰でも174メートルで訪問した日本人は「山がない」という印象をもつ。宗教としてはキリスト教福音主義ルーテル派であるが、宗教心の強い国とは言えない。国民所得に占める割合をみると、サービス業66%(民間43%、公的23%)、製造業21%、建築関係業7%、農業5%、電気ガスなど1%であり、サービス業の占める割合が大きい。資源の乏しいこの国では、輸出で外貨を獲得している。輸出のうち、農産物は12%にすぎなく75%が工業製品である。GNPは世界第5位である。この国は、租税方式による社会保障をしている。また、保健、福祉、医療、教育は無料である。保育には負担がある。年金も、高齢者年金4500クローネ・9万円、障害者年金は12万円、重度障害24万円と日本と比較して充実している。個人が社会の中で尊重され、子供が親を扶養する義務はない。障害者も成人すれば親は子供を扶養する義務はない。障害者の生活の支援を社会がする。税金は所得税をみると国税23%、県税11%、市税21%(14〜25%)である。2007年からは新しくできた広域行政機構(レギオナ)には課税権がなく、国税約25%、市税約25%となっている。付加価値税は、食料費等の日常必需品以外は25%である。

なぜ、デンマークのような福祉国家が出来たかの質問を、しばしばしたが、「昔から貧しかったので平等意識がつよく相互援助が発達した」「デンマークの民主主義の成果である」「女性の社会進出が老人福祉を発達さした。家事から女性を解放した」「長期間戦争がなかった」「グルンドヴィ(1783-1872)によるフォルケホイスコーレの運動(生きるための学校の運動)がある国」「ヨーロッパ中央の都市から離れていた」などの理由をデンマークの人々はあげている。

デンマークの市町村合併みると、1979年には1388あった市町村を275に統合している。その後、271になっていたが、20071月には、271の市を98の市に統合している。県は2006年までは14であったが、2007年には県を廃止し4つの広域行政機構(レギオナ)に再編されている。統合の理由としては、国が、市に福祉行政を分権化すること、自治体間の差を少なくすること、福祉を十分に推進することをあげており、日本のように、財政的な理由は前面に出ていない。

1970年には、「福祉行政法」が成立し、もろもろの福祉政策が、実施されている。1974年には「生活支援法」が成立はしている。この「生活支援法」の成立は特に重要で、高齢者福祉の充実化に大きな影響を与えた。1979年から1982年にかけて、福祉省下に設置された、超党派の「高齢者問題委員会」(委員長アナセン教授)において、生活支援法を活用することによって、デンマークの「高齢者福祉の三原則」が定められている。高齢者福祉の三原則は「自己決定」「生活の継続性」「自己能力の活用」である。この原則がその後も貫かれている。三原則は、国の中央の福祉省においても、また、地方のプライエムでも、高齢者福祉センターでも、語られており、その理念を着実に実現している。1990年には「生活支援法」が改正されている。2002年6月には、新しい「高齢者福祉法」が制定されている。2007年には自治体の再編により、病院運営、障害者施設の運営等は広域行政機構(レギオナ)の所管業務となり、社会福祉、高齢者福祉、医療以外のヘルスケア、児童教育等は市(コムーネ)の業務はとなっている。このように、その時代、時代に即応した法律の改正が行われるのはデンマークの特徴でもある。

自治体の行政をデンマークでは市議会が実施している。市長は市議会より選出されるが選挙で多数を得た等の代表が市長になっている。実際の行政を常任委員会がつかさどっている。大部分の市には財務、福祉文化、環境、技術の委員会がある。業務の内容の面で福祉委員会が重要視され全予算の約6割が福祉予算である。

 

1.基本となる生活支援法

1974年に、福祉の分野では、世界的にも、注目されている総合的な法律「生活支援法」が成立している(実施は19764)。この法律は、それまでばらばらであった福祉関係法を一本化して、利用者主体にサービスを提供できるようにしたものである。福祉の対象を、障害者、精神障害者、知的障害者、高齢者、母子家庭とかのグループに分けて、それぞれ別のサービスを提供するという従来の方法をやめて、理由は別にして、日常生活が困難となった国民すべてに、サービスを提供するという法律である。そして、サービスを提供する義務をコムーネ()に負わせている。

社会支援法

第1条            公共機関は、国内に居住し、且つ本人若しくはその家族がおかれている状態のための相談、経済的若しくは実際的な援助、職業的能力の開発若しくは回復のための援助、または介護、特別な治療若しくは教育的な援助を必要とするすべての者に対しては、この法律の定めるところに基づいて、援助を行う義務を有する。

第6条        すべての男性及び女性は、公共機関に対して、本人自身の生活を維持するとともに、配偶者及び18歳未満の子(以下、この法律においては「子」という)を扶養する義務を要する。

第9条         コムーネ議会(市議会)は、個々の援助形態に関して別に定めのある場合を除いて、この法律の定めるところに基づいて援助を実施するものとする。

 

 この法律が実施されてからは、グループ別の利用度の統計がなくなった。社会的弱者をグループ別化して、比較することを避けたのが主な理由といわれている。

社会支援法は、「枠組み法」あるいは、「額縁法」とよばれ、国は大まかな方向性とか、ある程度の枠組みを規定するだけで、具体的なサービスの内容、質、量なとは、各自治体()にまかされている。したがって、各市で競争しながら、高齢者福祉の施策がとり組まれている。さらに、1979年から82年にかけて、福祉省に「高齢者問題委員会」(委員長アナセン教授)が設置され、高齢者福祉の三原則「自己決定」「自己資源の活用」「生活の継続性」が答申された。

住宅の提供(プライエムの建設、高齢者住宅の建設)、ホームヘルプ、訪問看護、補助器具の提供などの事業が続けられる。1989年には、サービス資源量は表1のようになる。その後、高齢者福祉の三原則の推進(1988年)、在宅福祉の推進(1988)、民間委託の推進(2002年)、等により、統計的な数字は困難になっていくが、全体的には、福祉職員の増加の傾向は見られている。社会支援法は、枠組み法とはいえ、著者の目から見ると、かなり具体的な考えが示されている。高齢者福祉に関係するとおもわれるものは、次のようになる。なお、ここでは、日本語訳の得られた1990年12月告示のものからの抜粋で、その後、アムト(県)の廃止等による改訂がおこなわれていると考えられる。

 

社会支援法

28条 コムーネ議会は、単身者及び家族に対して、継続的な指導及び助言を無料で提供することができ、且つ援助を必要とすると認められるものすべての者に対して、訪問調査活動によって、指導及び助言を行う義務を有する。指導助言の目的は、当面する一時的な困難に関して、本人を援助すること、及び、長期的視点に立って、発生する問題を本人が自らの力で解決することが出来るようにすることである。

指導助言は、単独で又は他の扶助若しくは援助と併せて行うことができる。

37条 環境の変化のために自己若しくは家族の生計維持に必要なものを入手することが困難となった者に対して、この節の定めるところに従って、基本扶助、受託加算及び児童加算からなる金銭扶助を支給する。

50条 コムーネ議会は、当該コムーネ内にホームヘルプ制度を整備し、その職業に従事するために訓練を受けたホームヘルパーによって家庭内での実際的な援助を行うことができるように保証する責任を有する。

58条 障害又は疾病若しくは老齢に起因する永続的障害を有する者のために、以下の各号に掲げる特別な衣服用品の購入に要する増加支出を含む、補助器具に対する補助金を支給することができる。

1)本人が職業に従事するために必要なもの

2)本人の苦痛を著しく軽減することができるもの

3)本人の在宅での、日常生活を著しく容易にすることができるもの

79条 コムーネ議会は、健康上の理由によって、第4章及び第5章に定める援助をもってしては自宅での生活ができなくなった者に、プライエムに入居する機会を与えることを保証しなければならない。

2.一般の住宅で生活することができない者であって、なおその状態がプライエム又はデイ・ホームの入所を必要とするまでに至らないものは、永続的な障害を有する者のための特別な施設を備えた保護住宅に住居を移すことができなければならない。

80条 前条に定めるプライエム及び保護住宅は、一つ又はそれ以上のコムーネ若しくはアムトコムーネによって、又は、コムーネ議会が協定を結んだ福祉法人として、設置及び運営することが出来る。

81条 この法律に定めるプライエム及び保護住宅の建設は、1988年1月1日以後は開設することができないものとする。

2.既設のプライエム及び保護住宅については、前項に定める以後も補修及び改築によって、この法律に基づいて継続して運営することが出来る。

82条 コムーネ議会は、可能な限り、居住者委員会と協力して、当該コムーネ内のプライエム及び保護住宅の日常の運営を監督する。

85条の2 2.プライエム居住者の住宅に関する負担額は、収入の15%の額とする。但し、暖房費及び電気料は、その実費相当額を負担するものとする。

 実際的援助及びその他の援助に関する費用負担額は、自宅で生活する者に適用する規定に従って定められる。

本項に定める費用負担額は、社会年金と相殺することが出来る。

3.箇々の居住者は、その者が受給した援助に対する費用に相当する額を、(自由に処分できる金銭として)保有することができなければならない。

1355.コムーネは67歳以上の者に関して、最終的に以下の各号に掲げる費用を負担する。

(1)在宅における実際的な援助、在宅死を望む者の世話及び第4章及び第5章に定める補助器具に関する費用

(2)第68条に定める措置された昼夜ケアの措置に関する費用

(3)第74条に定めるデイ・ホーム及びデイケア・センターの利用に関する費用

(4)第79条に定めるプライエム及び保護住宅における滞在に関する費用

 

2.在宅福祉だけで、高齢者福祉対策はどこまで可能なのか

1988年改革 ホルベック―

1988年改革のポイントは高齢者委員会の答申に基づいて、高齢者福祉の三原則(@自己決定の尊重A生活の継続性B自己資源の活用)を徹底すると、ともに財政面からも、それまでのやりかたを見なおすことであった。

具体的には

1)ホルベックでは、それまで、建設を進めてきた「プライエム」(特別養護老人ホーム)の建設をやめるとともに、市ですすめていた施策を5地区の「総合福祉センター」に分権化することであった

2)施設は利用者を束縛しているという欠点をもつということから、在宅と施設を一体的に運営する。看護婦2人とホームヘルパー13人で構成する18チーム(2003年現在19のチーム)でもって、80世帯(場合によっては50世帯)の在宅および施設の対象者をケアする。昼間勤務、準夜勤務、深夜勤務の体制を「病院の病棟と同じようにつくり、「24時間在宅ケア体制」を確立した。プライエムを1995年までにゼロにする計画を1990年に立てた。この背景には、プライエムが長期滞在施設になり利用者を施設に束縛することになりつつことと、高齢者人口が増加し、95年には「プライエム」をさらに90床増設の必要性があること、高齢者ケアの全体の経費が2倍になると推定されることがあった。施設福祉を0にし、在宅福祉だけで高齢者福祉対策をするのは一般的に難しい、特に増加しつつある認知症対策ではどうしても効率的で、当事者にとって良質なケアをするためには施設的なものが必要である、そこで、問題はグループホーム、高齢者住宅が施設でなく、在宅であるように、運営できれば、この問題は解決できたことになる、デンマークの人たちの意識ではグループホームも高齢者住宅も居宅福祉の方向で整理されている。すなわち、グループホームも高齢者住宅も表札をつけ、バストイレがあり、新聞受があり、自由に出入りが出来、個有部分、共有部分の家賃を自分が払い、食材料費を支出するという形で整理されている。高齢者住宅は2部屋、バストイレつきで60u以上になってきている。

 

表2 デンマークにおける高齢者施設・住宅整備の推移(デンマーク社会省資料)

 

          1987   1990    1995   2000     2006

施設系

 プライエム   49,088       44,847         36,468        29,685        15,424

 保護住宅       6,595        6,315          5,108          4,274          2,870

住宅系

 高齢者住宅     3,356        7,305         20,985         34,600        58,292

合計              59,039       58,467       62,561        68,559        76,586

 

 

2)住民参画の拡大・・@以前から「プライエムの利用者委員会」が存在していたが、1989年頃からは、しだいに、「在宅と施設の利用者委員会」「アクティブセンターの利用者委員会」と対象を拡大していった。2002年には、施設の説明も、施設長でなく、利用者委員長が説明するようになっていった。すなわち、プライエムという施設に限定するのでなく、地域の高齢者総合福祉センターの全体に関わる運営するという形態である。さらにホルベックでは5カ所のセンターの合同利用者委員会もあった。

A利用者の選択権の重視・・・・在宅と施設の垣根を取り払うと言う改革、在宅に施設の良さを、施設に在宅の良さをと言う改革が88年にされ、「在宅と施設の一体的な運営」が強調されたが、

2003年改革ではホルベックでは、施設ケアと在宅ケアを分離し「在宅ケア」に民間が参入する。これは、1988年−92年の改革で実現した「施設と在宅の一体的な運営」よりも「住民がサービスの選択肢の豊富化」の方を重要視した結果である。

B利用者委員会の活動

 利用者委員会理事会は5−9名で構成、ホルベックは7名、月1回開催、議題は2週間前に予告、前回の決定事項の確認から始まる。利用者委員会に施設長も参加している。職員は18名いる(キヨスクを除く)。利用者委員会のメンバーは選挙によって選出される。任期は2年。運営予算はほとんどが、タクシー代、企画費、事務費である。ステンフスバッケン総合福祉センターでは事務費20万円タクシー代180万円である。「利用者委員会」はビリアード、トランプ、庭づくりグループ、鶏飼育グループ、キヨスク運営等の活動とファッションショー、音楽会、ビンゴ会、映画、クイズ、イースター、クリスマス、夏至、魔女焼き、遠足、入所者歓迎会等の行事の企画している。

 

施設と在宅の一体化した運営(1988年)、民間委託の実施(2002年)により、高齢者福祉で働く人の数は把握しにくくなっているが、今まで、ホルベック(人口3万3千人、67歳以上、4171人)を訪問した人たちの報告書もとに高齢者福祉の現状をみると 次のようになる。

1989年・・・ 在宅154人、施設239人 計393人を対象に在宅ケアは看護婦21人、ヘルパー122人、OT・PT11人で実施している。 在宅ケアチーム(原則として看護婦2人とヘルパー13人で構成)は18チームでスタート している。施設・・・プライエム4カ所(252個室)スタッフは239人(看護婦3 5人、OTPT寮母等91人、趣味の指導員1人、事務・掃除・調理99人、その他13 人)、デイサービス(1日10人)、 高齢者住宅0世帯、ケア付き住宅24世帯。

1993年・・・ ホームヘルパー224人、訪問看護婦38人、保健婦9人、その他不明

施設と在宅の垣根をなくす試みが始まっていた。在宅ケアチームは18チーム、5つの総合福祉センターを拠点(ここには、在宅ケアチームの一部の詰め所およびデイセンター、談話室、キヨスク、ボランチティの控え室等がある)に活動していた。プライエムは90室に減少、ケア付き住宅18戸、高齢者住宅220戸

1999年 高齢者福祉に働くスタッフは541人、うち、ヘルパー300人

認知症対象のために、グループホームが60室、スタッフ60人である。在宅ケアは、夜間在宅はヘルパー3人で15世帯、準夜勤ヘルパー9人、3チーム、昼は在宅ケアチーム(看護婦2人、ヘルパー10−15人)18チームで対応 している。総合福祉センター は5カ所。

2003年 スタッフはパートを含めると650人、在宅ケアのチームは19チーム、利用者1344人、9161時間、認知症用グループホームが60人から110人と増えている。高齢者住宅 250戸 。

総合福祉センターは5カ所ある。利用者委員会の運営するアクティヴィティセンターはますます盛んとなっている

 

 このように15年の推移を見ていくと、252室あつた「プライエム」の個室は、ゼロにはなっている。全国的にも198950,575ベットあったプライエムのベットは、2006年には、15,424ベットに減少している。グループホームとか高齢者住宅が増加している。認知症の高齢者を対象とした「グループホーム」が、99年には60戸あったが、2003年には110戸と増加している。これ以外に、高齢者住宅が、250戸ある。しかし、これらを施設と言わず、住宅の一形態としている。

2003年時点では、在宅福祉の方は「在宅ケアのチーム(19チームあって、看護婦2人、ヘルパー13人で構成)」は、これらの高齢者住宅に住む高齢者も含めて、1344人を対象に、「24時間在宅ケア体制」を実施している。この他、アクティヴィティセンターやリハビリ施設を充実することで「在宅強化の方向」は貫かれている。また、補助器具については、県に1カ所の「補助器具センター」が存在するとともに市役所とか総合福祉センターに「補助器具倉庫」があり、リサイクルも行われている。92年頃の「施設と在宅の統合化」(5カ所の総合福祉センター構想)によって、在宅の職員と施設の職員の区分が出来なくなった。さらに、2003年頃から、在宅サービスの一部が民間委託がされることから、これらの数字はさらに曖昧になると考えられる。それでも、日本と比較すると、施設は2倍近くあり、在宅には10倍のスタッフが働いているということになる。なお、賃金は2007現在、ホームヘルパー(介護福祉士)月給(週労働時間37時間・手当込24.334クローネ(約56万円)、看護師の月給(週労働時間37時間)は30.055クローネ−〜33.588クローネ.(約69万円〜約77万円)である。またホームヘルパーの教育は9年間の義務教育後、1年間の教育で、現場半年、教育半年、教育期間中は市から給与が出る。更に1年半教育を受けると、病院の看護助手の業務が可能となり、医療と福祉の両方とも働けるようになる。また、更に看護婦、OTPTの学校に進学できるようになる(高校卒と同等) 。看護婦は高卒後3年と9カ月の教育で、国家試験を受けパスしたのち卒業となる。

 

 3.ニーズ判定と品質保証・・・2003年改革 ホルベック

 2001年に社民党から保守党に政権が変わり、2002年6月に新法律が新政権のもとに、出来ている。調査に訪れた2003年はホルベックでは新しい法律での動きが顕著になりつつある時であった。政権党である保守党は「おしきせの福祉サービスでなく、自由度を強くしたい」「選ぶのは住民、市民権がより保障される形の変更する」と言っていった。

主な変更点 としては、判定する部門とサービスを実施する部門が別にするようになったことと民間参入を認めることであった 。ただし、在宅ケアのホームヘルプ部門から、民間委託し、プライエム、グループホーム、高齢者住宅は当面民間でなく、行政がサービスを行う。民間参入といわれているが行政と民間を総合的に運営して当事者にとって良いものにするという目的があげられている。

今後は、利用者の権利を重視し、高齢者の自立を期待して、効率的に実施することを目的にしている。民間が参入することにより、トータルケアが難しくなるので、民間と行政の総合調整 が課題であるとしている。ニーズ判定(介護判定)は、これまでグループ毎に訪問看護婦が実施していたが、市によって異なるが、ホルベックでは5人委員会(訪問看護婦、作業療法士、理学療法士、ホームヘルパー(1年半の教育を受けた者)の5人で判定し、実施し評価されている。この制度は2003年8月スタートであり、申請があってから5日以内に判定を行う とされており、日本の介護判定より短期間でおこなわれている。ニーズの判定は6ヶ月間有効である。ニーズ判定は、時間を十分にかけるので、1日2−3人しかできていない。ネストベッズでは査定員が今までの経過記録を持って現場へ行って19項目についてニーズ判定(5段階)し、サービスを決定し、契約する。年1回の見直しがある。その場でサービスカタログ(介護計画)を作成し即発注、市が直接または委託によりサービスを提供する。ニーズ判定は、全てを1〜1.5時間かけ調査し、本人は、何故このサービスが受けられるのか、受けられないのかの説明を受ける。だから、1日2〜3人が限度である。不服は、直接高齢者委員会、申立委員会にする。したがって、サービスカタログ(介護計画)とサービス品質保証(契約どおり実施されている証書)が存在する。このような形で判定され、市もしくは民間業者で実施されるので、日本のようなケアマネージャーは存在しない。

今まで、ホームヘルプと訪問看護を一体的に運営してきたが、ホームヘルプの一部が、2003年から、民間委託されたので、調整が課題である。訪問看護も、今後、民間委託される見込みである。2007年訪れた、ネストベッズでは1割以上が民間委託されており、市によって、民間委託のスピードは異なる。

ホームヘルプの経費はホルベックでは掃除が1時間あたり 264クローネ(5280円、177クローネ-320クローネの幅がある、) 身体介護 1時間あたり 273クローネ (5460円、202クローネ-334クローネの幅、)  夕方・夜の身体介護は370クローネ(7400円)である。当初はこの値段で、民間への委託がされる。すなわち、現在の所、行政で行うのと同一値段で、民間に委託されている。

 サービスの品質管理がされているのは19の分野であるが、それは、配食(給食)、調理(食事)、掃除洗濯、買い物、個人衛生、社会交流、アクティヴティ、運動、リハビリ、訪問リハ、聴力障害サービス、地域センター活用、訪問看護、失禁対応、ターミナルケア、認知症対策、訪問予防活動、住宅、高齢者委員会 である。このように、サービスの品質管理がデンマークではされている。日本でもホームヘルプサービスの品質管理をきちんとすべきである。評価については満足度調査が予定されており、95%以上の人が満足していなければならないとしている、5%を抽出し、抜き打ち検査してサービスを評価する予定である。

  サービス内容については、大きなビジョンと個々の細かい内容に至るまで決めている。その上で現場がニーズ判定をしている。9つのポイントがあり、このポイントをダイヤグラムで視覚的に示すことにより、当事者に理解し易いようにしている。ポイントは次の9項目である。1.食事が自分で出来るか、2.水分補給ができるか、3.移動の自由度 4.日常的家事 5.活動しているか、6.社会的ネットワーク 7.精神的レベル  8.慢性病の有無 9.住宅は生活に適しているか。

1990年頃から実施しているが、2002年頃からコンピューター化したので視覚的に見ることができるようになった。

 

 以上見てきたように、2003年は大きな変革の年であった。しかし、デンマークでは、高齢者福祉の責任は「市行政」であり、医療の責任は県(2007年からは広域行政機構)である。責任が日本のように曖昧でない。たとえ、在宅サービスが民間に委託されても、評価し、次の行動を決定するのは市の行政であり、そのための「評価方針」「評価項目」「評価方法」が実施する前の段階できちんとしている。このことは印象的であった。また、ビジョンを職員で「文章化」しておくという試みもされ、実施後評価に使用すると言うことであった。なるほどと思った。日本では、「文章化」して確認し、実施し、「評価する」というプロセスが不足しているのではなかろうか。2003年改革では、以前と比べてニーズ判定が厳しくなったこと、報告義務が必要になったこと、5%の抜打ち調査が実施されることになったことの変化がみられた。

4.在宅電子カルテを活用・・・2003改革 ホルベック

2003年のホルベック、2007年のネストベッズでは、携帯電話を少し大きくした程度の携帯のコンピューターを活用した電子カルテが試みられていた。すでに、この試みは国の補助金もあることからデンマークの多くの自治体で行われている。今の方法は、2001年から動き始めた。デンマークでは4〜5種のプログラムがある。このソフトを使うと福祉省から1.6ミリオンクローネの補助がある。400万クローネは各自治体が負担する。この様にオンライン化をすすめている。ここでは、電子カルテから得られたデーターを中心に述べてみたい。ホルベックは委員会でニーズ判定をしているが、ネストベッズは次のようになる。

1)対象者自身と査定員がそれぞれに判断、基準と比較評価して査定する。

 仕事、教育、衛生、住宅、身体的機能的、身体ケア、等について、全体的に何ができるか上中下に区分する。在宅では身体ケア(看護・トレーニング)とサービスの頻度、時刻等を決め、スタッフは委託先を市、民間の別に分ける。

2)市は介護計画プランを作成し、査定員が現場で修正して完成させた後、サービス業者へ転送する。

3)サービス提供側はケアプランをヘルパーへ送信

4)ヘルパー等が訪問する。訪問先へ到着すると時刻を入力し、サービスを開始する。

 

1)ホルベックのホームヘルプのサービスニーズ

 1988年に5カ年計画で改革を考え実践した。15年前の1988年改革と比較すると、高齢者は、機能的に良くなり、いい状態の人々が増えている。

 ホルベック市で在宅、施設(グループホーム)で、67〜79歳で、86%、80歳以上で44%の人は、ホームヘルプを必要としていない。ホームヘルパーの利用者は、20001,330人が、1週間当たり身体介護から生活支援まで含めて9,369時間利用した。99年に利用時間が増えたのは、ホルベックフースがグループホ−ムに改築し終わった為で、グループホ−ムに入所すると一人当たりの利用時間が増える。 2000年の結果から2006年1,300人、10,800時間と2012年1,400人、11,500時間と予測をしている。 2002年ホルベック市は、高齢者住宅に他市から52人受け入れている。この人達の費用は、出身の市が負担するので、現在はキャパシティに余裕がある。

 現在、ホルベック市に高齢者住宅250戸、認知症老人のグループホーム110(ケア付き住宅)があるが、360人の内、1997年〜2002年に年間62人〜92人が死亡している。高齢者住宅、グローブホームという居宅で死亡することは、病院での死亡が8割を占める日本の現状からすると驚きで、生き方と死に方違いを考えさせられる。1997年〜2002年に年間の待機者は13人〜82人であるが、希望すると緊急性がなければ2〜3カ月、空いていれば翌日からでも入れる。表3.サービス内容の9つのポイント

 

1. 食事が自分で出来るか    自立     半自立    困難   完全な依存
2. 水分補給ができるか     自立     半自立    困難   完全な依存
3. 移動の自由度        屋内     屋外
4. 日常的家事         買物     掃除     花に水をやる
5. 活動しているか       教会     クラブ活動
6. 社会的ネットワーク     家族  友人  有無  いいか、悪いか 人間関係
7. 精神的レベル        痴呆     うつ病
8. 慢性病の有無        糖尿病  リウマチ  悪性疾患等  
9. 住宅は生活に適しているか

 

表4.200年改革に伴うホルベックの仕組み

新法に伴うホルベック市の仕組み

   理 念    ←――――   基 本    ――→ 市議会・市当局

 ニーズ判定(5人のスタッフ) ←―  ニーズ判定    ――→   市当局

   評 価      ←――   決 定    ――→   市当局
                                
 実践、不服申立  ←―――― 
サービス提供    ――→ 市当局 + 民間

 サービスの満足度調査        追跡調査    ――→ 5%の抜き打ち調査

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

表4.   ホームヘルパーの利用状況      2003,1

年  齢

利用不要

身体・生活

生活支援

身体支援

6779

86%

8%

5%

1%

8099+

44%

37%

16%

3%

 

 表5. 高齢者住宅(250)とケア付き住宅(110)の年次別死亡者と待機者()

                                     (ホルベック)

 

1997

1998

1999

2000

2001

2002

死亡者

60

76

74

92

62

71

待機者

67

82

13

68

62

65

  

  表6. ニーズ判定の活動実績(ホルベック)2003年 第19(5/55/11) 


 

使用時間数(h)

支援人数

日勤

準夜

深夜

Total

日勤

準夜

深夜

入浴(1.3)
 

301.03

1.20
 

5.00
 

307.23

499
 

2
 

1
 

個人衛生のヘルプ(1.3)
 

358.15

42.04

2.55
 

402.74

273
 

40
 

4
 

衣服の着脱(1.3)
 

302.20

148.19

7.36
 

457.75

301
 

155
 

11
 

カテーテルの交換(1.4)
 

30.05

12.32

3.06
 

45.43
 

37
 

16
 

0
 

トイレのケア(1.5)
 

306.33

201.59

50.28
 

559.00

156
 

132
 

52
 

皮膚の世話清拭(1.6)完全看護
 

67.33

19.47

0.00
 

86.80
 

163
 

34
 

0
 

身体的補助器具(1.7)
 

102.56

39.43

1.20
 

143.19

149
 

70
 

3
 

移動の介助(1.8)
 

318.09

113.39

6.30
 

437.78

174
 

16
 

6
 

体位変換(1.9)
 

21.33

33.39
 

34.37
 

89.09
 

17
 

29
 

26
 

その他(1.10)
 

264.31

33.03

6.46
 

303.80

303
 

45
 

10
 

精神的支援(2.1)
 

149.59

33.49

3.35
 

186.43

126
 

28
 

5
 

生き甲斐対策(2.2)
 

85.34

7.14
 

0.35
 

92.83
 

31
 

6
 

1
 

その他(2.3)
 

24.13

10.34

4.07
 

38.54
 

32
 

12
 

4
 

 

 

 

 在宅電子カルテには、個人情報一覧表として、個人番号、 生年月日と4桁の数字、氏名、住所、電話番号、配偶者、家族、鍵の置き場所、緊急番号、犬の有無とその対応、予防的訪問、 ホームヘルパー援助、訪問看護、どういうサービスを受けているか、自分でヘルパーを雇っているか、活動センターに行っているか、友愛訪問、家庭医名、医学的問題、診療科、倒れ易いか、記憶障害の有無、筋肉痛、傷病名、衛生 、移動のニーズ、・緊急通報装置、個人的警報システム 、給食サービス等々が調査記入されている。職員は、絶えず up data を習慣づけられている。入力して更新している。各地域センターに3台設置してあり、活動から帰ると入力する。グループ毎にキーワードがあり、自分のグループ以外は見えないようになっている。オンラインで、本部のみ全てのグループを見ることが出来る。このソフトを使って、週単位訪問活動実績表、個別9項目機能ダイヤグラム、週単位の職員活動予定表、週単位チーム活動記録、等の個別訪問看護記録が以前は、あらゆる統計がスタッフに依頼しなければ出てこなかったが、本部で見えるようになった。 その結果、本部は、全体の流れを絶えず認識することができ、地域センターの職員毎に、何時から何時まで、何処で何をしているのかが判るようになり、職員も具体的に個別対応が判るようになった。

 

5.デンマークにおける予防活動の試み・・・2007年改革 ネストベッズ 

デンマークの成人に対する予防活動の歴史は新しい。各市で取り組みの差があるが、ここでは、ネストベッズを中心に見ていこう。ネストベッズのヘルスセンターは2007年1月の市町村合併を契機にヘルスセンター(保健、障害、ホームケア、企画調整・事務部門の4つ)を設立し予防対策は自治体の責任とした。従来2つの県5つの高齢者福祉センター等にあった業務を再編した。

市民の健康支援をしており、スタッフは65名である。職種としては看護師、医師、大学修士、栄養、ソーシャルアドバイザー、教育者、経済学者など10種類位である。この1年間で健康について政策発展プロセスを討議し、優先順序を作成、健康面への情報活動を行っている。平均寿命がデンマークは男性75.6歳、女子80.4歳で日本の男性78.5歳、女性85.5歳に比べても差が大きく短いことから、予防活動が取り組まれることになった。どの市においても、民間委託が行われていく中で、行政の余力を予防活動の方に向けるようになってきている。

1995年までは予防活動は少なかったが、1996年に出来た法律で、自治体は、年2回以上75歳以上の高齢者全員に、予防的な訪問を提供しなければならないと決められている。家族、経済、健康、日常生活、食事に、何かあれば、これに対する対応をし、アドバイスを求められれば提供する。訪問看護婦、事務職、作業療法士、理学療法士で30分から1時間かけて訪問をする。訪問の中では、安心感を持った生活をしてもらうことを重要な要素としている。

新しく設置されたヘルスセンターの業務には、次のようなものがある。

1)退院後リハビリ…脳卒中、事故等の退院後のリハビリ

2)補助器具(作業療法士担当)・・・車椅子、杖などの補助器具のリサイクル・・注文・査定・相談業務、補助器具倉庫(デポ)があり修理も実施している。

3)アルコール、麻薬患者への指導治療

   アルコール:嫌酒薬使用、女性が多い

   麻薬:98%経済的問題あり生活扶助、男女半々対処

       

4)保健予防活動

生活習慣病の予防のために4つのポイントに重点を置き、KRAM運動(K:食事、R:喫煙、A:アルコール、M:運動)を展開している。

・健康学校(慢性疾患への対処)が開始された。家庭医からの指示された者が、週2〜3回2時間を10週間のプログラムで教育される。運動と食事クラス分けして生活指導が実施される。評価は運動、食事内容で行われる。プログラム作成に医師が協力する。費用は無料、2007年は200名が予定されている。日本でも開始される特定保健指導に似ている。

・特に喫煙は長い年月(30年)かけて取り組んだが解決されず、やはりこの問題は、法律で決めることが必要と結論づけ、2007年7月から公共の場は喫煙禁止となっている。

 この他に性教育、エイズ教育が実施されている。国の健康キャンペーンに協力するとともに、スタッフの能力向上の研修を実施する。

5)協力連携機関

協力連携機関としては、家庭医、病院(リハビリの内容の決定、医師、作業療法士、理学療法士、リハビリのケースは3カ月毎にミーティング)、患者会(糖尿病,がん、盲目、アルコール)、全国NGOのローカル支部、スポーツクラブ(12月から運動アドバイザー作る予定)、自然環境保護団体(国有林関係)がある。

 

6.デンマークの高齢者施策をささえるもの

デンマークの高齢者福祉を支えているものは、デンマーク人のものの見方考え方、デンマーク民主主義がある、それが集約したものが、社会支援法等の法律であり、各市の福祉の理念に見ることが出来る。

ここでは、特色ある「教育」をしているフォルケホイスコーレ(国民高等学校)について若干みてみたい。

 フォルケホイスコーレはデンマークで約95校、(北欧で400校)、高齢者向けは5校といわれる。農民運動・宗教運動の父といわれているグルンドヴィの指導による学校である。上からの教育でなくて対話で「生きることの自覚」を促すという考えであり、ここでも全寮制である。理念は「対話と共生」であり、入学試験はない。デンマークのフォルケホイスコーレは当初、成人教育のための施設であった。フォルケホイスコーレを日本では「国民高等学校」とか「民衆学校」と翻訳され紹介されているが、日本にない学校だけにその意義伝わりにくい。その発端は1844年、敗戦によって荒廃した国土の復興と郷土愛の向上のために、提唱され、1851年、クリステン・コルによって設立された。グルンヴィは、少数のエリートが社会を牛耳っていた19世紀のはじめに、真の民主主義を社会の実現するためには、農民の教育が重要と考え、フォルケホイスコーレ、「生のための学校」を提唱した。当時20代の若者の1割がこの学校に学んだといわれる。時代とともに、教育内容は変化しているが、現在ではデンマークにある学校のすべてが私立であり、一定の条件をみたし国の認可を受ければ、国から運営費の85%の補助を受け取ることが出来る。現在ではフォルケホイスコーレに学ぶ理由としては、@自分自身を試すため、A社会人になる準備のため、Bこれからの生活や仕事の準備のため、大学進学への準備のため等が考えられる。設立許可の際、ガイドラインがあり、カリキュラムと校長に関して承認が必要である。ここでは、2種類のフォルケホイスコーレを紹介する。

ひとつには中学3-4年生を対象にしたもので、私立の中学校である。昨今、世界中が「子供の自立性」を問題にしている中で、このフォルケホイスコーレは注目して良いと思う。既に、他の北欧諸国に波及しつつあると言うことであった。近年、義務教育等の学校が統合(8−10校が1校に)される中で、グルンドヴィの考えを生かしたここのような学校が増えている。原則、1年教育の全寮制の学校である。エリート教育でなく、対話、話し合う教育をめざしている。義務教育の授業以外に、ニーズと自然を生かした学校で、学生の自立をめざしている。義務教育以外に、音楽、乗馬、アーチェリー、ヨット、ダイビング、パラグライダー、落下傘パイロット養成の理論、等、30のコースがある。費用は親、国、出身の市が3分の1ずつ、大体18000クローネ・36万円は親の負担である。

もうひとつは2002年に訪問した「エルシノア」のフォルケホイスコーレは高齢者を対象にしたものであった。ここでは、70歳代、80歳代の人々が2週間のコースで学んでいた、杖をつきながら先生の前に集まっている高齢者の姿に感激した。「老人大学」が2週間、泊まり込みで開催されている。随分、人気があるようで、全国から応募があるという。学習意欲の高い高齢者が多いと感じた。この学校は全寮制で、55歳以上が対象にしている。高齢者を対象としたフォルケホイスコーレはデンマークには5校あり、全国から応募がある、国からの補助金は必要経費の2分の1程度になる コースは25コースあり、音楽、彫刻、旅行、デザイン、ダンス、写真技術、デンマーク文学、ビデオ技術、各種スポーツ等多彩である。ここも、入学試験も入学資格もなく、先着順に入学が決まり、寝食をともにしながら、教師と学生が交流しながらまなぶ学校である。授業だけでなく日常の共同生活から社会人間関係を学ぶ学校である印象的だったのは、杖をつきながらも2週間寮生活をしながら学ぶデンマークの高齢者の姿であった。

 

参考文献

1)伊東敬文 1990 福祉と医療の連携のあり方 海外社会保障情報 90 pp1-16  .

2)関 龍太郎1994 デンマークの高齢者福祉に学ぶもの 海外社会保障情報 108号 pp.72-84

3)デンマークの社会支援法 1993. ビネルバ出版 西澤秀夫訳 

4)医療経済研究・社会保健福祉協会 医療経済研究機構 2007 諸外国における介護施設の機能分化等に関する調査報告書

 

 

 


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デンマーク、スウェーデンの高齢者保健福祉から学ぶ

1. 基本的な理念と高齢者福祉のあゆみ

2. デンマークと島根県益田圏域における介護サービスの比較

3. 行政と高齢者の合意形成のシステム

 

デンマーク、スウェーデンの高齢者保健福祉から学ぶ・・・2002年レポート

デンマーク、スウェーデン等の北欧の高齢者保健福祉政策から多くのことを学ぶことが出来る。著者はこれらの国に何回も出かけ、日本とどこがどのように違うのかについて、検討を重ね、また、日本で生かすにはどのようにしたらいいかについて研究してきた。2000年の4月からは、日本では介護保険がスタートした。島根県においては、大きな問題も指摘されていない。一応順調な滑り出しということが出来るであろう。しかし、今後解決すべき課題はいくつもあるであろう。多くの人が指摘しているように、確かにヨーロッパの国々は、日本と異なる歴史と価値観を持っているので、そのすべてを日本に取り入れることは不可能であろう。日本においても、介護保険制度、障害者プラン、ひとにやさしいまちづくり条例の制定、健康日本21等によって、障害者や高齢者がすごしやすい環境を整備することは重要である。歴史や価値観が異なっても、補助器具(福祉機器)やバリアフリーのための住宅、バリアフリーのまちづくりついてのデンマークの現状は十分に参考になると考えられる。今回はデンマークの高齢者福祉の基本的理念、日本との比較、住民と行政との合意形成のシステムづくりについての近年の動きについて紹介する。

デンマークは面積43,000平方キロメートル、人口約500万人の国である。面積では九州、人口では兵庫県、北海道、千葉に近い。最高峰でも147メートルであり、山らしい山がない。職業ではサービス業が3分の2を占めている。この国は社会保険方式でなく、租税方式による社会保障を実施している。保健、福祉、教育の経費は原則無料であるが、保育には一部負担がある。税金は所得税をみると、国税23%、県税11%、市町村税平均21%(14−25%)で、54%であり、付加価値税(消費税)が22%である。国民の宗教は、キリスト教のルーテル派であるが、それほど宗教心の強い国民ではないと思われる。デンマークが現在のような福祉国家に何故なることが出来たのかということに注目し、スタディツアーにおいても質問を機会あるごとにしたが、「昔から貧しかったので平等意識が強く相互援助が発達した」「バイキングの考え方であり、船上で働いたので平等意識が強い」「デンマークの民主主義の歴史の成果である」「長期間、戦争がなかったからである」「 育児を社会化した女性が意識をもって社会進出をし、老人福祉を発達させた。その結果、さらに家事から女性を解放した」などが答えであった。

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1. 基本的な理念と高齢者福祉のあゆみ

デンマークは基本的な理念としては、「基本的人権」を尊重した国である。訪問した際、随所で、デンマークショックを感じた。「高齢者福祉の三原則」「プライエムにおける利用者委員会の意見の尊重」「福祉サービスにおける作業療法士、訪問看護婦の現場決定権」「地方税率が国税率に比較して相対的に高いこと」等において、一人一人の人権が尊重されている国であることを感じた。また、基本的な人権を浸透させる過程において、人々の意見を十分に聞くというシステムで、ものごとの処理がごく自然に民主的に行われている。 すなわち、「民主主義とは何か」についても、学ぶべきことを多く持った国である。

デンマークの「高齢者福祉のあゆみ」をみると、表2のようになる。ノーマリゼーションという考えを強く打ち出した「1959年法」が、59年にバンク・ミケルセン氏によって起草されている。日本が高度成長政策をとり、農村人口の減少し始めた64年には、プライエム(デンマークでは特別養護老人ホームをこのように呼んでいる。また、障害者も一緒に入所している)の建設のガイドラインを厳しくし、その結果、公的なものが増え、個人経営のものが減少している。内容的には、個室が増え、15平方メートル以上、バストイレ付きになっている。68年には「高齢者年金者福祉サービス法」が制定され、老人福祉の基本的な考え方が「慈悲型福祉」から「ケア型福祉」になっていく。70年には市町村自治体の合併が行われ、1,388の自治体が277になる。このことによって、地方の力を強くした。74年には、ホームヘルパーを制度化する「生活支援法」が出来る。79年には、高齢者福祉の三原則(自己決定、生活の継続性、自己能力の活用)を決めた「高齢者問題委員会」の設置。85年には「フリーコミューン法」を国会に提出。しかし、デンマークでは、既に、一定程度のことが、地方に分権化されていたため、スウェーデンのようには、この法律を根拠にしての動きは多くは見られていない。87年には国の市町村への補助金行政を原則的に廃止し、その予算を交付税に振替。88年にはプライエムの新設をやめ、これらのことにより、「ケア型福祉」から在宅を重視した「自立的な福祉」に転換している。この結果、市の各圏域ごとに、統合ケアシステムの拠点として「高齢者総合センター」を建設していくこととなる。プライエムは減少し、87年に5万あったベットが、98年には3万5千ベットに減少している。92年に始めてコペンハーゲン市に導入された低床バスも、94年には300台となっており、2002年には全部のバスを低床バスにするといっている。このことは住民にとってよいものは、ただちに拡充するというデンマークの「合理性」を物語っている。94年からはホームヘルパーの派遣会社に時間給の半分を国が補助している。派遣会社が零細なものが多いためにとられた措置であり、97年の議論でも継続が決定している。必要なものには予算を投入するというデンマークの考えがみられる。80年頃から、みられはじめた「24時間の在宅ケア体制」は95年頃には、全市町村に拡充されている。さらに、95年頃からは、高齢者ケアーサービスを民営化という動きがみられており、98年にはキーライエ市等で、競争入札すらみられている。民営化といっても、経費は公費が負担する形である。しかも、隣国のスウェーデンの企業の進出もみられており、ヨーロッパ連合のなかで解決すべき課題も今後は増えていくことが推測される。さらに、98年からは、社会サービス法により、住民の参画を拡充した「高齢者審議会」の設置が義務づけられるとともに、福祉サービスに対して、「品質管理」が行なわれている。例えば、ホームヘルプサービスの品質管理の目標を少なくとも年一回、市民に対して明示することとなっている。

このようにデンマークでは、高齢者福祉の三原則(自己決定、生活の継続性、自己能力の活用)を重視した政策が具体的に推進されている。
これらの結果は、多くの成果と課題を生み出している。

成果としては---

(1)

高齢者福祉サービスを、これまでの市役所を中心とした中央集権的なものから、市を数圏域に区分しサービスを各圏域で行なうようにする(例えば、人口3万のホルベック市で5圏域、ネストベッズ市で7圏域)。各圏域にプライエム、ヘルパーステーション、デイサービス等の機能を統合した「高齢者総合センター」をおくことにより、施設と在宅の壁を取り除くことができ、施設の寮母を地域のヘルパーに活用する等により、「柔軟性と経済性のよい福祉サービス」が提供できるとともに、圏域おいて、多くの課題が解決できるようになった。

(2)

「高齢者審議会」の設置等により、高齢者自身の行政への参画の機会を増やし、自分でサービスを選択する権利を持つようになり、基本的人権がより尊重されるようなシステムを構築した。

(3)

広くて近代的でしかも障害をもっても、自立して生活することが可能な設備・条件を備えた「高齢者住宅」が全国的に普及し、プライエムの個室より、高齢者の「住」の質が向上した。

(4)

看護とか介護にあたる職員が施設と在宅の両方の学習を実践的にすることが出来、業務の質が向上した。


  一方、2002年以降の課題としては---

(1)

在宅ケアサービスが非常に合理化され、また障害度の高い高齢者も在宅ケアでカバーするようになったため、介護や看護者の負担が非常に大きくなり、高齢者一人一人に対する人間的な触れ合いが持ちにくくなった。

(2)

施設と在宅の「統合ケアシステム」が進み、多くのプライエムが「集合高齢者住宅」と「多機能福祉サービス施設」の両方の要素を持つようになったため、多くの高齢者が出入りするようになったため、プライエムが静かなところでなくなった。

(3)

プライエムを減らし、高齢者住宅を増やす政策をとったため、身体的な障害者にとっては、施設での共同生活を選択することを難しくした。

(4)

民営化については、多くの自治体が「福祉」は公的機関が行うという考えから躊躇しているが、一部で民営化が行なわれてきている。今後、ヨーロッパ連合との関係もあり、検討が必要である。


これらの課題を解決する試みもいくつか準備されている。なかでも、「高齢者審議会」は、高齢者福祉に対する国民一人一人の意見を十分聞き、今後に反映するとともに、場合によっては一人一人の考え方をも改革しようとする「システム」である。つまり、福祉サービスを受ける側の者も、それを支えている側の者も、皆がもっと個人の責任を自覚し、積極的に社会に働きかけていく必要性が容易している「システム」である。

いずれにしても、財政的に厳しくなるなかでは、デンマークの福祉も、前途多難である。ただ、デンマークの特徴としては、よりよい高齢者福祉をめざして、常に制度を、みんなの合意で動かしてきていることである。それも、財政的にも確立した地方自治のなかで行われている。

デンマークの高齢者福祉従事者は、自治体の福祉事務職員を除いて、89年は86、317人が98年には93,899人と7,682人増加している。しかし、国内総生産に占める高齢者サービスの費用は2.38%から2.17%と減少している。7,000人以上の人件費が増えたにもかかわらず、率ではこうした減少が可能になったのは、高齢者福祉サービスの運用が、それまでよりは遙かに効率的に改革されたことを示している。具体的には 従来は在宅ケアと施設ケアの組織や予算が別になっていたので、相互の資源の活用もされず、効率が悪かった。89年頃からの施設と在宅を一体化して、運営するという「改革」で年間一人あたり600万円(3万クローネ)ほどかかる施設ケアの人的資源を在宅にも活用出来るようにしたための経済効果がみられている。

1998年1月には、9万3千余りの高齢者福祉従事者の67%の6万3千余りは、統合した制度で働いている。したがって、97年の65歳以上のデンマーク人は78万人であり、65歳以上の1000人当たりの高齢者福祉の従事者は120人である。全ての人口では1000人対18人となる。人口5000人の町では90人、1万では180人、10万の市では1800人となる。統合ケアシステム6万人、プライエム・デイホーム1万8千人、ホームヘルパー8千5百人、デイセンター1千7百人等である。近年の改革によりプライエム等の施設のみで、働く人が減り、在宅と施設を統合した「統合ケアシステム」で働く人が増加している。

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2. デンマークと島根県益田圏域における介護サービスの比較

島根県は、平成4年度に12年度当初の目標を定めた「島根県老人保健福祉計画」を策定した。12年度当初の整備状況は、施設サービスでは特別養護老人ホームでは目標の2900床、老人保健施設では1320床に対して、それぞれ2950床、1375床であり、達成率は119.1%、124.6%である。また、在宅サービスでは、ホームヘルパーは1302人、デイサービス、デイケアは126ヶ所、ショートスティ581床、訪問看護ステーション45ヶ所、ケアハウス500人に対して、それぞれ、1216人、169ヶ所、688床、53ヶ所、412人であり、達成率は93.4%、134.1%、118.4%、117.8%、82.4% である。 平成123月に策定され、16年を目標年次とした「改訂島根県老人保健福祉計画(いきいき長寿21)」では、高齢者人口も185434人(高齢者率24.3%)から192825人(25.7%)に、要援護老人27,176人から29,781人に増加することから、表4のような新たな目標を掲げている。これによると、平成16年までに、介護老人福祉施設は519床、介護老人保健施設は569床、介護療養型医療施設は307床、計1395床の施設と、訪問看護員2483人、訪問看護ステーション87ヶ所、通所介護施設124施設、短期入所専用ベット444床、認知症対応型グループホーム39ヶ所等の充実が計画されている。

次に、日本とデンマークを比較してみよう。しかし、制度の違う両国を比較することはきわめて困難であるが、ここでは、あえて、比較を試みた。具体的には、デンマークの3つの市と人口の比較的近い益田圏域を比較検討した。近年、デンマークは施設と在宅を統合的なケア体制で運営しているので、職種別、施設別のデーターを得ることは、これまた困難になってきている。ここでは、1989年のデーターではあるが、詳細の資料のあるグラスザックセ市、ホルベック市、ネストベッズ市と2000年の益田圏域のデーターをもとに考察する。なお、表3でみてきたように、デンマークの3市は98年は89年より、多くのスタッフが働いていると推察できる。

まず、施設であるが、益田圏域の2000年をみると、特別養護老人ホームは5施設290ベットである。これは、65歳以上人口の1.43%にあたる。このほか、老人保健施設149ベット、療養型病床群(介護型)175ベットあり、合計すると614ベットとなり、3.0%となる。デンマークの場合、療養型病床群にあたるものは医療の中に「慢性疾患病床」として位置づけられているので、別にカウントされることとなるが、日本の特別養護老人ホームに似た「プライエム」はグラスザックス市526ベット、ネストベッズ市329ベット、ホルベック市252ベットであった。しかし、89年以降、在宅重視の施策がとられ、減少傾向にある。65歳以上人口に占める率は、それぞれの市で、7.2%、4.6%、5.7%となる。

日本の場合、国は高齢者人口に占める特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群の合計の利用者数の割合を3.4%と参酌標準に示しているが、島根県の場合、平成12年度で、3.27%、16年度で3.85%としている。益田圏域では、12年度で2.89%(582ベット)、16年度で3.90%(791ベット)である。利用率が100%でないので、ベット数は利用者数より多く、12年度3.1%(614ベット)、16年度で4.1%(836ベット)である。 すなわち、デンマークの.それぞれの市は、7.2%、4.6%、5.7%に対して益田圏域は2.89%である。デンマークは益田圏域の1.5倍から2.5倍である。デンマークでは3割減少していると考えられるので、1ー1.8倍と推察される。

以上の結果、2000年に確保されているベットの数は、デンマークは日本の1.5倍程度である。もちろん、これのみで論じることは出来ない。さらに、医療施設の現状、高齢者住宅やケアハウスの現状の中であわせ論ずるべきことであろう。なお、痴呆対策については、デンマークにおいても大きな課題であり、6−10人を7−8人で見るという「グループホーム」方式になってきている。    

次に、在宅の現状をみてみよう。
在宅ケアでは、まず、ホームヘルパーの数をあげるべきであろう。グラスザックス市279人、ネストベッズ市296人、ホルベック市122人であり、それぞれ、65歳以上人口の3.9%、4.2%、2.8%である。デンマークの場合、大部分の市で「24時間在宅ケア体制」が とられ、実施されている。本人が選択すれば156回でも、ホームヘルパーは、生活を援助している。益田圏域の2000年のヘルパーは81名であり、これは65歳以上の人口の0.4%にあたる。デンマークのヘルパーは益田圏域の710.5倍である。デンマークの数字は1989年であるが、その後、施設のスタッフが在宅に活用されているので、実動人数では増加していると推察出来る。98年に在宅と施設の合計した高齢者福祉部門の従事者数があるがグラスザックセ市で1208人、ホルベック市で541人であり、プライエムとか在宅で働く人は減少していない。前述したように、高齢者福祉の従事者はデンマークでは人口1000人あたり18人、65歳以上人口あたり120人である。

日本の場合は、在宅の生活を支援するという基盤が弱いことに加えて、1割の利用料もいることから、本人が希望しないものも多いとされている。益田圏域の要援護老人は平成12年は2360人、平成16年は2547人であるが、訪問看護を希望するものの割合は、平成1229.3%、1333.3%、1437.4%、1551.6%、1662.0%である。介護保険のスタートした平成12年は3割をきっている。このことは、訪問看護、通所介護、通所リハビリテーションにおいても同様の傾向を示している。特に、訪問リハビリテーションの取り組みは遅れており、平成12年度は供給量は必要量の2.6%、16年度でも、43.0%に過ぎない。

以上の結果から、高齢者を支える基盤が、デンマークと日本では、特に在宅において、かなりの格差がみられることが明らかになった。

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3. 行政と高齢者の合意形成のシステム

いまひとつの、デンマークの最近の特徴として、市民参画を促進する「システムの構築」がある。プライエム(特別養護老人ホーム)における「利用者委員会」を充実し、社会サービス法により、地域の課題を審議する場として「高齢者審議会」を設置されたことは、すでに述べたが、介護ニーズの判定においても、高齢者本人の参画がされてきている。かっては作業療法士、看護婦が、さらにそれ以前には、事務職員が一方的に決めていた「ニーズ判定」を、現在では専門職の訪問看護婦と高齢者の本人の対話の中で行なわれるようになった。ニーズの判定の方法はデンマークの各自治体によって異なっている。判定に使用する用紙も異なっている。担当の訪問看護婦が30分から1時間かけて高齢者の自宅を訪問し、話し合いながら情報収集し、その場でどのような支援サービスを、何曜日のどの時間帯に、どれだけのサービスを提供するかを決定する。あとは、利用者の状況によって臨機応変に対応する。変化がない時でも、半年に1回は見直しを実施する。このように、行政と高齢者本人の「合意形成のシステム」が確立してきている。

「合意形成のシステム」のほかにも日本と異なる点がある。すなわち、日本の場合は「介護認定審査会」で介護度が認定され、介護度によって居宅介護支援事業(ケアプラン作成事業者)から専門家である「介護支援員」によってケアプランが作成される。プランを、それぞれのサービス提供者に示し、サービスが提供される。見直しは半年に一回でデンマークと同じある。デンマークでは第一線の訪問看護婦、作業療法士が、どのようなサービス、どれだけ、いつするかの、決定権が任されている。また、このほかにも、いくつかの点でデンマークで試みられ、日本で参考になるものがある。例えば、ホルベック市の東地区では、入居者のサービスの利用料の支払方法で特色がある。もちろん、従来のようにパッケージとして、月2600クローネ余り(52000円)を支払ってもよいが、自分の利用したサービスのみを支払うという方法が出来たことである。そのための、表6のような料金表が定められている。これ以外に家賃と光熱費として10002500クローネほどを支払う。このように、一人一人に費用面においても、自分の金を支払うという意識を持たす試みがされている。これは、各自の部屋に各自の表札をおくとか、各自の部屋に新聞を新聞配達の人に配達してもらうシステムにするとか、年金は一度は必ず本人に渡すとかと共通した「システムの構築」である。

また、近年、公的サービスの品質管理のことも、確立してきている。「社会サービス法」によって、275の市町村は、高齢者福祉で提供されるホームヘルプサービスの品質目標を少なくとも年に一回市民に明示しなくてはならなくなっている。このことを明記した「パンフレット」の作成過程に「高齢者審議会」のメンバーが参加している。例えば、ホルベック市では、掃除サービス、身体的介護、配食サービス、移送サービス、洗濯サービス、緊急警報、デイセンター、地域総合センター、リハビリテーション等の品質管理のパンフレットが作成されている。表7、表8は掃除サービスと個人的介護サービスについてのパンフレットである。例えば、掃除サービスのパンフレットには、表7に見られるように、
 (1)サービスの目的
 (2)誰がサービスを受けられるか
 (3)どのような支援をうけられるのか
 (4)普通の掃除とは
 (5)どれだけのサービスを受けられるのか
 (6)ホルベック市義務
 (7)利用者の義務
 (8)いくらかかるか
が表のような内容で書かれている。このように、一種の契約行為を通じて行政が高齢者と合意形成するシステムがつくられてきている。日本においても、ホームヘルプサービスといっても、どのようなサービスを、どの部分まで、月にどのくらいの回数、いくらかかるのか、等をはっきりすべき時がくるであろう。その時、デンマークの近年の動きは参考になるであろう。

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図表は表2以外省略(島根の国保を見てください)----参考 変遷l 表2l ..トップ

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参考文献

(1)

エイジング総合研究センター;先進国における最近の高齢者対策、東京、1999

(2)

小島ブンゴード孝子ほか;福祉の国からメッセージ、丸善、東京、1997

(3)

ハラール・ボルデシュハイムほか;北欧の地方分権改革、日本評論社、東京、1995

(4)

関 龍太郎;デンマークの高齢者福祉の構築、松江、1994

(5)

島根県;島根県老人保健福祉計画(いきいき健康長寿21)、松江、2000

(6)

島根県;島根県益田圏域老人保健福祉計画、松江、2000

 

 

デンマークの高齢者福祉政策(月刊福祉2009年1月号、2月号)、

(1)老人ホーム(プライエム)が消えつつある国

                     松江総合医療専門学校 関 龍太郎

@デンマークって、どんな国・・その1

デンマークって、どんな国だろう。デンマークにおいても住民からすると、保健と医療と福祉は「統合」されるべきだといわれてきたが、まだ、実現されていない。しかし、デンマークは、保健、医療、福祉の大部分が、公的機関、公的財源で行われてきたので、「統合的運営」が、比較的容易である国である。

デンマークは面積4万3000平方キロメートル、人口約547万人(2007)の国である。65歳以上の高齢者数は約84万人(高齢化率15.4%)、平均寿命77.96(男性75.64歳、女性80.41)、合計特殊出生率1.74である。高齢化率は1960年に10.6%1970年に12.3%198014.4%199015. 6%になり、その後減少傾向にあったが、最近、再度増加の傾向にある。なお、65歳以上の親と子どもの同居率は日本の約50%と比較して非常に低く、6%程度である。

面積では九州、人口では兵庫県とほぼ同じである。最高峰でも174メートルで訪問した日本人は「山がない」という印象をもつ。宗教としてはキリスト教福音主義ルーテル派であるが、宗教心の強い国とは言えない。資源の乏しいこの国では、輸出で外貨を獲得している。輸出のうち、農産物は12%にすぎなく75%が工業製品である。GNPは世界第5位である。この国は、租税方式による社会保障をしている。また、保健、福祉、医療、教育は無料である。保育には負担がある。年金も、高齢者年金9万円、障害者年金は12万円、重度障害24万円と日本と比較して充実している。個人が社会の中で尊重され、子供が親を扶養する義務はない。障害者も成人すれば親は子供を扶養する義務はない。生活の支援を社会がする。言い方をかえれば、成人に対して国が扶養の義務があるといってもよい。税金は所得税をみると国税23%、県税11%、市税21%(14〜25%)である。2007年からは新しくできた広域行政機構(レギオナ)には課税権がなく、国税約25%、市税約25%となっている。付加価値税(消費税)は、食料費等の日常必需品以外は25%である。

A老人ホーム(プライエム)が消えつつある国

1974年に、福祉の分野では、世界的にも、注目されている総合的な法律「生活支援法」が成立している(実施は19764)。この法律は、それまでばらばらであった福祉関係法を一本化して、利用者主体にサービスを提供できるようにしたものである。福祉の対象を、障害者、精神障害者、知的障害者、高齢者、母子家庭とかのグループに分けて、それぞれ別のサービスを提供するという従来の方法をやめて、理由は別にして、日常生活が困難となった国民すべてに、サービスを提供するという法律である。そして、サービスを提供する義務をコムーネ()に負わせている。

生活支援法

第1条            公共機関は、国内に居住し、且つ本人若しくはその家族がおかれている状態のための相談、経済的若しくは実際的な援助、職業的能力の開発若しくは回復のための援助、または介護、特別な治療若しくは教育的な援助を必要とするすべての者に対しては、この法律の定めるところに基づいて、援助を行う義務を有する。

第9条         コムーネ議会(市議会)は、個々の援助形態に関して別に定めのある場合を除いて、この法律の定めるところに基づいて援助を実施するものとする。

この法律により、市の責任で援助を必要とするものすべての者に対して援助をすることになった。法律が実施されてからは、グループ別の利用度の統計がなくなった。社会的弱者をグループ別化して、比較することを避けたのが主な理由といわれている。

生活支援法は、「枠組み法」あるいは、「額縁法」とよばれ、国は大まかな方向性とか、ある程度の枠組みを規定するだけで、具体的なサービスの内容、質、量などは、各市にまかされている。したがって、各市の間で競争しながら、高齢者福祉の施策が取組まれている。さらに、1979年から82年にかけて、福祉省に「高齢者問題委員会」(委員長アナセン教授)が設置され、高齢者福祉の三原則「自己決定」「自己資源の活用」「生活の継続性」)が答申された。

住宅の提供(プライエムを廃止し、介護型住宅および高齢者住宅の建設)、ホームヘルプ、訪問看護、補助器具の提供などの事業が続けられる。1989年に、人口547万人のデンマーク全体で「プライエム」1212箇所、5万床、ホームヘルパー34千人、訪問看護師53千人、県立補助器具センター17箇所等を抱えていた。この数は施設で日本の約2倍、スタッフでは約10倍である。その後、高齢者福祉の三原則の推進(1988年)、在宅福祉の推進(1988)、民間委託の推進(2002年)、等により、統計的な数字は困難になっていくが、全体的には、福祉職員の増加の傾向は見られている。高齢者福祉に関係するとおもわれるものは、次のようになる。なお、ここでは、日本語訳の得られた1990年12月告示のものからの抜粋で、その後、アムト(県)の廃止等による改訂が随時おこなわれている。デンマークでプライエムをゼロにするということを聞いたのは、1992年のスタディツアーの時である。ホルベックでは年次計画で1995年にはゼロになっていた。日本では、なお、特別養護老人ホームの建設推進の時期だけに、非常に印象的であった。このことは、生活支援法の中では次のように明記されている。

 

81条 この法律に定めるプライエム及び保護住宅の建設は、1988年1月1日以後は開設することができないものとする。

2.既設のプライエム及び保護住宅については、前項に定める以後も補修及び改築によって、この法律に基づいて継続して運営することが出来る。

 (以下省略)

 

1988年、このように、プライエム、保護住宅の建設を廃止し、高齢者住宅へと、住宅政策を転換する。では、プライエムが消えてどうなったかをホルベックを例に見てみよう。ホルベックでは、1988年、「高齢者問題委員会」の答申に基づいて、高齢者福祉の三原則(@自己決定の尊重A生活の継続性B自己資源の活用)を徹底するとともに財政面からも、従来の政策を見なおすことであった。プライエムを1995年までにゼロにする計画を1990年に立てた。この背景には、プライエムが長期滞在施設になり利用者を施設に束縛することになりつつことと、高齢者人口が増加し、95年には「プライエム」をさらに90床増設の必要性があること、高齢者ケアの全体の経費が2倍になると推計されたことがあった。

その結果を、2003年のスタディツアーの際に、確認したが、次のようになっていた。@5箇所の総合福祉センターの建設と運営A「24時間在宅ケア体制」の確立B高齢者住宅、介護型住宅の建設Cサービスの品質管理と民間委託 である。

具体的には

1)ホルベックでは、「プライエム」(特別養護老人ホームに近い)の建設をやめるとともに、5地区の「総合福祉センター」を中心に展開していた。「総合福祉センター」というと、単なる建物を想像しがちであるがそうではない。アクティブセンター、ディセンター、ディケアセンター、ショートステイ等とその周辺に、介護型住宅(プライエボーリ)と高齢者住宅を抱えた福祉エリアづくり、街づくり、である。日本の小規模多機能に元気老人のための「アクティブセンター」を加えた上、周辺に住宅を抱えたエリアである。それが、ホルベックでは5カ所、人口約7千人、1カ所ある。そのような街づくりをしている。

2)24時間在宅ケア体制」が確立している。施設はどんな立派な施設でも利用者を束縛しているという観点からから廃止し、在宅ケアチーム(看護婦2人とホームヘルパー13人で構成する18チーム、2003年現在19のチーム)でもって、80世帯(場合によっては50世帯)の在宅の対象者をケアする。昼間勤務、準夜勤務、深夜勤務の体制を「病院の病棟と同じようにつくり、「24時間在宅ケア体制」を確立している。

3) 「高齢者住宅、介護型住宅の建設の推進」である。そこで、問題は介護型住宅、高齢者住宅が施設でなく、在宅の1形態であるように、徹底できれば、この問題は解決できたことになる、デンマークの人たちの意識では介護型住宅も高齢者住宅も居宅福祉の方向で整理されている。すなわち、介護型住宅も高齢者住宅も居住者の自立を原則とし、表札をつけ、新聞受があり、自由に出入りが出来、部屋にはバス、トイレ、キッチンがあり、固有部分、共有部分の家賃を自分が払い、食材料費を支出するという形に整理されている。介護型住宅(プライエボーリ)2部屋、簡易キッチン、バス、トイレつきで内廊下式、40u以上になってきている。高齢者住宅は2部屋(場合によっては3部屋)、普通のキッチン、バス、トイレつきで60u以上になってきている。ホルベックでは、1989年252床あったプライエムが、ゼロになり、高齢者住宅が250戸建設されていた(2003年現在)

4)サービスの品質管理と民間委託

2003年ホルベックでは19チームある「在宅ケアグループ」を民間に委託するかどうかが課題となっていた。ホームヘルプに、2003年、民間参入がされたが、訪問看護婦にも民間参入が検討されていた。2007年訪れた、ネストベッズでは1割が民間参入されており、市によって、民間参入のスピードは異なる。ホームヘルプの経費はホルベックでは掃除が1時間あたり 264クローネ(5280円、177クローネ-320クローネの幅がある、) 身体介護 1時間あたり 273クローネ 5460円、202クローネ-334クローネの幅、)  夕方・夜の身体介護は370クローネ(7400円)である。この値段で、民間への委託がされる。すなわち、現在の所、行政で行うのと同一値段で、民間に委託されている。日本のような経費削減を目的とした民間委託ではない。 また、サービスの品質管理が19の分野でされている。それは、配食(給食)、調理(食事)、掃除洗濯、買い物、個人衛生、社会交流、アクティビティ、運動、リハビリ、訪問リハ、聴力障害サービス、地域センター活用、訪問看護、失禁対応、ターミナルケア、認知症対策、訪問予防活動、住宅、高齢者委員会 である。日本では品質管理のされてないように、社会交流、アクティビティ、地域センター活用、高齢者委員会の分野の品質管理がデンマークではされている。日本でも介護予防を考えていくならこれらの分野の品質管理が必要である。

 

参考文献

1)伊東敬文  福祉と医療の連携のあり方 海外社会保障情報 90 pp1-16  . 1990

2)関 龍太郎 デンマークの高齢者福祉に学ぶもの 海外社会保障情報 108号 pp.72-84. 1994.

3)関 龍太郎 デンマークの高齢者福祉を支えるもの 海外社会保障研究 162号 pp.53-66. 2008.

4)岡本祐三 デンマークに学ぶ豊かな老後 朝日新聞社 1990

5)松岡洋子 デンマークの高齢者福祉と地域居住. 新評論 2005.

6)デンマークの社会支援法  ビネルバ出版 西澤秀夫訳1993.

 

 

  デンマークの高齢者福祉 A

時間給120円で働いている人のいる国、高齢者が学び続ける国

                松江総合医療専門学校長 関 龍太郎

@デンマークってどんな国

なぜ、デンマークのような福祉国家が出来たのかの質問を、訪問中、しばしばしたが、「昔から貧しかったので平等意識がつよく相互援助が発達した」「ヨーロッパ中央の都市から離れていた」「デンマークの民主主義の成果である」「女性の社会進出が老人福祉を発達さした。家事から女性を解放した」「長期間戦争がなかった」「グルンドヴィによるフォルケホイスコーレの運動がある国」などがかえってきた。これらの中にバイキング時代からデンマークの中に培われた「自立」「平等」「隣人愛」「連帯」「自由」「共生」「抑圧からの解放」等の北欧型の民主主義をみることができる。宗教家であり、教育者でもあつた「グルンドヴィ(1783-1872)」による影響が大きい。また、第二次大戦後、ノーマリゼーションの父といわれた「ハンス・ミケルセン(1919-1990)」による、「ノーマリゼーションの考え方」の影響も大きい。法律では、1849年に、君主制度を廃止し、民主的な憲法を制定する。1970年には、「福祉行政法」を成立させ、もろもろの福祉政策が、実施されている。1974年には「生活支援法」が成立はしている。この「生活支援法」の成立は特に重要で、高齢者福祉の充実化に大きな影響を与えている。1979年から1982年にかけて、社会省下に設置された、超党派の「高齢者問題委員会」(委員長アナセン教授)において、「高齢者福祉の三原則」(自己決定、生活の継続性、自己能力の活用)が定められている。三原則は、国の社会省においても、また、地方のプライエムでも、高齢者福祉センターでも、語られ浸透していた。1990年には「生活支援法」が改正、その後も随時改正がされ、2002年6月には、「高齢者福祉法」が制定されている。2007年には自治体の再編により、病院運営、障害者施設の運営等は広域行政機構(レギオナ)の所管業務となり、社会福祉、高齢者福祉、ヘルスケア(医療以外)、児童教育等は市(コムーネ)の業務はとなっている。このように、その時代、時代に即応した法律の改正が行われ、実施されていくのもデンマークの特徴でもある。北欧型の民主主義である「自立」「平等」「隣人愛」「連帯」「自由」「共生」「抑圧からの解放」の理念が貫かれている。

 

A 時間給120円で働いている人がいる国

 2003年に、ロスキル県の知的障害者、自閉症のグループホーム及び福祉工場(20年前に建設)を視察した。ロスキル県には24人と20人、の2カ所のグループホームがあるが24人定員の方である。デンマークでは18歳になると障害者をひとりの大人としてみなした対策がとられている。障害者等は国からの年金で生活をしている。グループホームの運営はグループ別(1グループ3−8人で構成)でされていた。全体会議も行われているが、この会議には行政とか親も参加している。このほか、利用者による入所者委員会もあった。

生活しているグループホームの部屋は約60uと広い。障害者ひとりひとりのアクションプラン(目標達成のための一人一人のプラン)があり、文章化されている。朝7時にスタッフが3人きて、支援と朝食。8時半から仕事もしくは学校。行きたくない人は残る。移送はバスか自転車である。福祉工場から16時に帰宅、その後は水泳、エアロビクス等、で楽しんでいる。夜は1人のスタッフが当直支援をしている、これが日課である。一人あたり、1万クローネ(20万円)の障害年金があり、うち4500クローネ(9万円)が家賃、残り5500クローネ(11万円)は食事と、生活費である。2週間に1回は、ハイキング、山登り等に行っている。これには、自己負担がある。休暇には旅行もしている。18人の教育福祉者、事務、掃除婦等のスタッフが、障害者の望む生き方を支援している。コンタクトパーソンが置かれている。福祉工場で働いているが、広く、各自が、自分にあった仕事をマイペースでしている。時間給は120円(100−200円)であった。障害者の働く権利については、「第8回社会保障国民会議」においても、竹中 ナミ委員( 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)が『障害があっても活力を持って社会に貢献しつつ安心して暮らせるというようなことについては、全く記述がありません。障害者に関する記述は、「出産に起因して重度脳性麻痺となった者への速やかな補償を行う」という記述があるだけです。これはあたかも、重度脳性マヒで生まれると、人生を失った人になるのだというふうにとられかねない記述であると思います。私たちの活動の仲間には、重度脳性マヒのチャレンジドも多数おられ、自分も社会の支え手になろうという意欲を持って努力をされています。働くチャンスが無い時代には「社会から補償をどれだけきちっとしていただけるか」という考え方が主流ではあったんですけれども、最近ではそうではなくて、自分も自立したい、支え手になりたいという方々が増え、大変努力もしておられます』という発言をしている。

デンマークでは障害者も働く権利を保障されているが、日本は、まだ、不十分である。日本も「障害者の働く権利」について、ノーマリゼーションの考えに基づいての実現が必要である。

 

3)高齢者が学び続ける国

デンマークの高齢者福祉を支えているものは、デンマークの民主主義である、それを集約したものが、「生活支援法」等の法律であり、市の福祉が実施している。デンマークの民主主義は長い期間かけて、育て上げられおり、教育システムの中でも、確立している。教育費は義務教育のみならず、大学においても、無料である。次に述べるフォルケホイスコーレにも、国は多額の補助金を出している。

デンマークの特色であるフォルケホイスコーレ(生のための学校)について若干みてみたい。フォルケホイスコーレはデンマークで約95校、(北欧で400校)、うち、高齢者向けは5校である。農民運動・宗教運動の父といわれているグルンドヴィの指導の学校である。上からの教育でなくて対話で「生きることの自覚」を促すという考えであり、全寮制である。理念は「対話と共生」であり、入学試験はない。フォルケホイスコーレを日本では「国民高等学校」とか「民衆学校」と訳され日本に紹介されているが、日本にない学校だけにその意義伝わりにくい。その発端は1844年、敗戦によって荒廃した国土の復興と郷土愛の向上のために、グルンドヴィによって、提唱され、1851年、クリステン・コルによって設立された。グルンヴィは、ラテン語を学んだ少数のエリートが学び、社会を牛耳っていた19世紀のはじめ、真の民主主義の社会を実現するために、農民の教育が重要と考え、フォルケホイスコーレ(生のための学校)を提唱した。当時20代の若者の1割がこの学校に学んだといわれる。時代とともに、教育内容は変化しており、現在は、高齢者、環境、風力発電、中学4年(エフタースコーレ)等を対象にしたものが注目を集めている。現在ではすべてが私立であり、一定の条件をみたし国の認可を受ければ、国から運営費の上限約75%の補助(ハード面の維持経費と人件費の半分)を受け取ることが出来る。

2002年に訪問した「エルシノア」のフォルケホイスコーレは高齢者を対象にしたものであって、70歳代、80歳代の人が2週間のコースで学んでいた、杖をつきながら先生の前に集まっている高齢者の姿に感激した。随分、人気があるようで、全国から応募があるという。学習意欲の高い高齢者が多いと感じた。この学校では、国からの補助金は必要経費の2分の1程度になる。コースは25コースあり、短期コース(1−4週)と長期コース(28ヶ月)があり、授業料は生活費を含めて、週当たり34万円である。音楽、彫刻、旅行、デザイン、ダンス、写真技術、デンマーク文学、ビデオ技術、各種スポーツ等多彩である。ここも、入学試験も入学資格もなく、先着順に入学が決まり、寝食をともにしながら、教師と学生が交流しながらまなぶ学校である。授業だけでなく日常の共同生活から社会人間関係を学ぶ学校である。それに国が多額の補助金を出している。このような教育が高齢者の自立を高めるとともに、デンマークの高齢者福祉施策を支えていると感じた。

 

Bデンマークの高齢者福祉の課題

2回にわたって、デンマークの高齢者福祉政策をみてきたが、デンマークの高齢者福祉対策も課題を抱えている。ひとつは次第に増加している「民間参入に伴う課題」である。利用者の要望で、選択肢を多くしていくために、民間参入を認め、その数は増加してきている。課題となるのは「民間委託と官民の連携のあり方」である。官にしても民にしても、その組織の中で完結することを必然的に求める。ネストベッズでは150戸の高齢者住宅(介護型)を1カ所に集中しているが、高齢者住宅(介護型)を訪問した際、ホルベック等の地区より高齢者住宅の高齢者と地域の住民、高齢者とのつながりが弱いのではないかと感じた。民間委託が増加していく中で、高齢者住宅がひとつの福祉エリアを形成することは問題を含む。これは、民間経営の高齢者住宅の集団が大きくなればなるほど、課題が大きくなる。2点目は医療との連携である。デンマークは県が廃止され、広域行政機構(レギオナ)になっている。医療の責任が広域行政機構にあり、福祉・介護の責任が市にある中で、医療エリアは福祉・介護エリアよりも広い。したがって、医療エリアの中に複数の福祉・介護エリア持つようになる。医療と福祉・介護の複雑な連携が課題である。3点目は移民の増加とその高齢化である。北欧は歴史的にも移民を出し、受け入れてきた。その人たちが高齢化してきている。そのなかで、異なる文化、異なる価値観が混在化してきている。4点目は、それにさらに拍車をかけて行くのが「ヨーロッパ一体化、EU化」であろう。他の経済圏域との競争もある中で、どのような考え方で行政を進めていくのか、その中で保健・医療・福祉・介護をどのように位置づけるか、今後の課題である。5点目は、効率化、能率化、合理化との闘いである。既に、配食サービスにおける冷凍食品の活用、グループホームの食事の委託がされてきている。食事は生きるための基本である。自分たちでつくるのが原点である。これを、どのように考え、実施していくか、デンマークにおいても大きな課題である。高齢化の進む各国が、保健・医療・福祉・介護の問題をどのように考えていくのかが問われているのかもしれない。北欧型民主義国家デンマークでは、今後も住民の意見を聞きながら、これらの課題の解決の道を模索していくであろう。

 

参考文献

1)花村春樹 「ノーマリゼーションの父 N.E.バンクーミケルセン」 ミネルヴァ書房 1994

2)関 龍太郎 デンマークの高齢者福祉を支えるもの 海外社会保障研究 162号 pp.53-66. 2008.

3)清水満 生のための学校 新評論 1993

4)澤渡夏代ブランド デンマークの子育て人育ち 大月書店 2005 

5)宮下孝美、宮下智美 あなたの子どもはあなたの子どもではない 萌文社 2004

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