★高齢者福祉(デンマーク研究会)のホームページ

                                                                                                        デンマーク研究会代表 関 龍太郎

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@デンマーク研究会は山陰地方を中心にデンマークを訪問した人たちで構成されています。今までのデンマークの高齢者福祉視察報告です

 

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2008年の報告を追加しています

 

下記の原稿は2009年1月2月の社協の 月刊「福祉」に掲載されました。お読みください。

デンマークの高齢者福祉政策、

(1)老人ホーム(プライエム)が消えつつある国

                     松江総合医療専門学校 関 龍太郎

@デンマークって、どんな国・・その1

デンマークって、どんな国だろう。デンマークにおいても住民からすると、保健と医療と福祉は「統合」されるべきだといわれてきたが、まだ、実現されていない。しかし、デンマークは、保健、医療、福祉の大部分が、公的機関、公的財源で行われてきたので、「統合的運営」が、比較的容易である国である。

デンマークは面積4万3000平方キロメートル、人口約547万人(2007)の国である。65歳以上の高齢者数は約84万人(高齢化率15.4%)、平均寿命77.96(男性75.64歳、女性80.41)、合計特殊出生率1.74である。高齢化率は1960年に10.6%1970年に12.3%198014.4%199015. 6%になり、その後減少傾向にあったが、最近、再度増加の傾向にある。なお、65歳以上の親と子どもの同居率は日本の約50%と比較して非常に低く、6%程度である。

面積では九州、人口では兵庫県とほぼ同じである。最高峰でも174メートルで訪問した日本人は「山がない」という印象をもつ。宗教としてはキリスト教福音主義ルーテル派であるが、宗教心の強い国とは言えない。資源の乏しいこの国では、輸出で外貨を獲得している。輸出のうち、農産物は12%にすぎなく75%が工業製品である。GNPは世界第5位である。この国は、租税方式による社会保障をしている。また、保健、福祉、医療、教育は無料である。保育には負担がある。年金も、高齢者年金9万円、障害者年金は12万円、重度障害24万円と日本と比較して充実している。個人が社会の中で尊重され、子供が親を扶養する義務はない。障害者も成人すれば親は子供を扶養する義務はない。生活の支援を社会がする。言い方をかえれば、成人に対して国が扶養の義務があるといってもよい。税金は所得税をみると国税23%、県税11%、市税21%(14〜25%)である。2007年からは新しくできた広域行政機構(レギオナ)には課税権がなく、国税約25%、市税約25%となっている。付加価値税(消費税)は、食料費等の日常必需品以外は25%である。

A老人ホーム(プライエム)が消えつつある国

1974年に、福祉の分野では、世界的にも、注目されている総合的な法律「生活支援法」が成立している(実施は19764)。この法律は、それまでばらばらであった福祉関係法を一本化して、利用者主体にサービスを提供できるようにしたものである。福祉の対象を、障害者、精神障害者、知的障害者、高齢者、母子家庭とかのグループに分けて、それぞれ別のサービスを提供するという従来の方法をやめて、理由は別にして、日常生活が困難となった国民すべてに、サービスを提供するという法律である。そして、サービスを提供する義務をコムーネ()に負わせている。

生活支援法

第1条            公共機関は、国内に居住し、且つ本人若しくはその家族がおかれている状態のための相談、経済的若しくは実際的な援助、職業的能力の開発若しくは回復のための援助、または介護、特別な治療若しくは教育的な援助を必要とするすべての者に対しては、この法律の定めるところに基づいて、援助を行う義務を有する。

第9条         コムーネ議会(市議会)は、個々の援助形態に関して別に定めのある場合を除いて、この法律の定めるところに基づいて援助を実施するものとする。

この法律により、市の責任で援助を必要とするものすべての者に対して援助をすることになった。法律が実施されてからは、グループ別の利用度の統計がなくなった。社会的弱者をグループ別化して、比較することを避けたのが主な理由といわれている。

生活支援法は、「枠組み法」あるいは、「額縁法」とよばれ、国は大まかな方向性とか、ある程度の枠組みを規定するだけで、具体的なサービスの内容、質、量などは、各市にまかされている。したがって、各市の間で競争しながら、高齢者福祉の施策が取組まれている。さらに、1979年から82年にかけて、福祉省に「高齢者問題委員会」(委員長アナセン教授)が設置され、高齢者福祉の三原則「自己決定」「自己資源の活用」「生活の継続性」)が答申された。

住宅の提供(プライエムを廃止し、介護型住宅および高齢者住宅の建設)、ホームヘルプ、訪問看護、補助器具の提供などの事業が続けられる。1989年に、人口547万人のデンマーク全体で「プライエム」1212箇所、5万床、ホームヘルパー34千人、訪問看護師53千人、県立補助器具センター17箇所等を抱えていた。この数は施設で日本の約2倍、スタッフでは約10倍である。その後、高齢者福祉の三原則の推進(1988年)、在宅福祉の推進(1988)、民間委託の推進(2002年)、等により、統計的な数字は困難になっていくが、全体的には、福祉職員の増加の傾向は見られている。高齢者福祉に関係するとおもわれるものは、次のようになる。なお、ここでは、日本語訳の得られた1990年12月告示のものからの抜粋で、その後、アムト(県)の廃止等による改訂が随時おこなわれている。デンマークでプライエムをゼロにするということを聞いたのは、1992年のスタディツアーの時である。ホルベックでは年次計画で1995年にはゼロになっていた。日本では、なお、特別養護老人ホームの建設推進の時期だけに、非常に印象的であった。このことは、生活支援法の中では次のように明記されている。

 

81条 この法律に定めるプライエム及び保護住宅の建設は、1988年1月1日以後は開設することができないものとする。

2.既設のプライエム及び保護住宅については、前項に定める以後も補修及び改築によって、この法律に基づいて継続して運営することが出来る。

 (以下省略)

 

1988年、このように、プライエム、保護住宅の建設を廃止し、高齢者住宅へと、住宅政策を転換する。では、プライエムが消えてどうなったかをホルベックを例に見てみよう。ホルベックでは、1988年、「高齢者問題委員会」の答申に基づいて、高齢者福祉の三原則(@自己決定の尊重A生活の継続性B自己資源の活用)を徹底するとともに財政面からも、従来の政策を見なおすことであった。プライエムを1995年までにゼロにする計画を1990年に立てた。この背景には、プライエムが長期滞在施設になり利用者を施設に束縛することになりつつことと、高齢者人口が増加し、95年には「プライエム」をさらに90床増設の必要性があること、高齢者ケアの全体の経費が2倍になると推計されたことがあった。

その結果を、2003年のスタディツアーの際に、確認したが、次のようになっていた。@5箇所の総合福祉センターの建設と運営A「24時間在宅ケア体制」の確立B高齢者住宅、介護型住宅の建設Cサービスの品質管理と民間委託 である。

具体的には

1)ホルベックでは、「プライエム」(特別養護老人ホームに近い)の建設をやめるとともに、5地区の「総合福祉センター」を中心に展開していた。「総合福祉センター」というと、単なる建物を想像しがちであるがそうではない。アクティブセンター、ディセンター、ディケアセンター、ショートステイ等とその周辺に、介護型住宅(プライエボーリ)と高齢者住宅を抱えた福祉エリアづくり、街づくり、である。日本の小規模多機能に元気老人のための「アクティブセンター」を加えた上、周辺に住宅を抱えたエリアである。それが、ホルベックでは5カ所、人口約7千人、1カ所ある。そのような街づくりをしている。

2)24時間在宅ケア体制」が確立している。施設はどんな立派な施設でも利用者を束縛しているという観点からから廃止し、在宅ケアチーム(看護婦2人とホームヘルパー13人で構成する18チーム、2003年現在19のチーム)でもって、80世帯(場合によっては50世帯)の在宅の対象者をケアする。昼間勤務、準夜勤務、深夜勤務の体制を「病院の病棟と同じようにつくり、「24時間在宅ケア体制」を確立している。

3) 「高齢者住宅、介護型住宅の建設の推進」である。そこで、問題は介護型住宅、高齢者住宅が施設でなく、在宅の1形態であるように、徹底できれば、この問題は解決できたことになる、デンマークの人たちの意識では介護型住宅も高齢者住宅も居宅福祉の方向で整理されている。すなわち、介護型住宅も高齢者住宅も居住者の自立を原則とし、表札をつけ、新聞受があり、自由に出入りが出来、部屋にはバス、トイレ、キッチンがあり、固有部分、共有部分の家賃を自分が払い、食材料費を支出するという形に整理されている。介護型住宅(プライエボーリ)2部屋、簡易キッチン、バス、トイレつきで内廊下式、40u以上になってきている。高齢者住宅は2部屋(場合によっては3部屋)、普通のキッチン、バス、トイレつきで60u以上になってきている。ホルベックでは、1989年252床あったプライエムが、ゼロになり、高齢者住宅が250戸建設されていた(2003年現在)

4)サービスの品質管理と民間委託

2003年ホルベックでは19チームある「在宅ケアグループ」を民間に委託するかどうかが課題となっていた。ホームヘルプに、2003年、民間参入がされたが、訪問看護婦にも民間参入が検討されていた。2007年訪れた、ネストベッズでは1割が民間参入されており、市によって、民間参入のスピードは異なる。ホームヘルプの経費はホルベックでは掃除が1時間あたり 264クローネ(5280円、177クローネ-320クローネの幅がある、) 身体介護 1時間あたり 273クローネ 5460円、202クローネ-334クローネの幅、)  夕方・夜の身体介護は370クローネ(7400円)である。この値段で、民間への委託がされる。すなわち、現在の所、行政で行うのと同一値段で、民間に委託されている。日本のような経費削減を目的とした民間委託ではない。 また、サービスの品質管理が19の分野でされている。それは、配食(給食)、調理(食事)、掃除洗濯、買い物、個人衛生、社会交流、アクティビティ、運動、リハビリ、訪問リハ、聴力障害サービス、地域センター活用、訪問看護、失禁対応、ターミナルケア、認知症対策、訪問予防活動、住宅、高齢者委員会 である。日本では品質管理のされてないように、社会交流、アクティビティ、地域センター活用、高齢者委員会の分野の品質管理がデンマークではされている。日本でも介護予防を考えていくならこれらの分野の品質管理が必要である。

 

参考文献

1)伊東敬文  福祉と医療の連携のあり方 海外社会保障情報 90 pp1-16  . 1990

2)関 龍太郎 デンマークの高齢者福祉に学ぶもの 海外社会保障情報 108号 pp.72-84. 1994.

3)関 龍太郎 デンマークの高齢者福祉を支えるもの 海外社会保障研究 162号 pp.53-66. 2008.

4)岡本祐三 デンマークに学ぶ豊かな老後 朝日新聞社 1990

5)松岡洋子 デンマークの高齢者福祉と地域居住. 新評論 2005.

6)デンマークの社会支援法  ビネルバ出版 西澤秀夫訳1993.

 

 

デンマークの高齢者福祉 A

時間給120円で働いている人のいる国、高齢者が学び続ける国

                松江総合医療専門学校長 関 龍太郎

@デンマークってどんな国

なぜ、デンマークのような福祉国家が出来たのかの質問を、訪問中、しばしばしたが、「昔から貧しかったので平等意識がつよく相互援助が発達した」「ヨーロッパ中央の都市から離れていた」「デンマークの民主主義の成果である」「女性の社会進出が老人福祉を発達さした。家事から女性を解放した」「長期間戦争がなかった」「グルンドヴィによるフォルケホイスコーレの運動がある国」などがかえってきた。これらの中にバイキング時代からデンマークの中に培われた「自立」「平等」「隣人愛」「連帯」「自由」「共生」「抑圧からの解放」等の北欧型の民主主義をみることができる。宗教家であり、教育者でもあつた「グルンドヴィ(1783-1872)」による影響が大きい。また、第二次大戦後、ノーマリゼーションの父といわれた「ハンス・ミケルセン(1919-1990)」による、「ノーマリゼーションの考え方」の影響も大きい。法律では、1849年に、君主制度を廃止し、民主的な憲法を制定する。1970年には、「福祉行政法」を成立させ、もろもろの福祉政策が、実施されている。1974年には「生活支援法」が成立はしている。この「生活支援法」の成立は特に重要で、高齢者福祉の充実化に大きな影響を与えている。1979年から1982年にかけて、社会省下に設置された、超党派の「高齢者問題委員会」(委員長アナセン教授)において、「高齢者福祉の三原則」(自己決定、生活の継続性、自己能力の活用)が定められている。三原則は、国の社会省においても、また、地方のプライエムでも、高齢者福祉センターでも、語られ浸透していた。1990年には「生活支援法」が改正、その後も随時改正がされ、2002年6月には、「高齢者福祉法」が制定されている。2007年には自治体の再編により、病院運営、障害者施設の運営等は広域行政機構(レギオナ)の所管業務となり、社会福祉、高齢者福祉、ヘルスケア(医療以外)、児童教育等は市(コムーネ)の業務はとなっている。このように、その時代、時代に即応した法律の改正が行われ、実施されていくのもデンマークの特徴でもある。北欧型の民主主義である「自立」「平等」「隣人愛」「連帯」「自由」「共生」「抑圧からの解放」の理念が貫かれている。

 

A 時間給120円で働いている人がいる国

 2003年に、ロスキル県の知的障害者、自閉症のグループホーム及び福祉工場(20年前に建設)を視察した。ロスキル県には24人と20人、の2カ所のグループホームがあるが24人定員の方である。デンマークでは18歳になると障害者をひとりの大人としてみなした対策がとられている。障害者等は国からの年金で生活をしている。グループホームの運営はグループ別(1グループ3−8人で構成)でされていた。全体会議も行われているが、この会議には行政とか親も参加している。このほか、利用者による入所者委員会もあった。

生活しているグループホームの部屋は約60uと広い。障害者ひとりひとりのアクションプラン(目標達成のための一人一人のプラン)があり、文章化されている。朝7時にスタッフが3人きて、支援と朝食。8時半から仕事もしくは学校。行きたくない人は残る。移送はバスか自転車である。福祉工場から16時に帰宅、その後は水泳、エアロビクス等、で楽しんでいる。夜は1人のスタッフが当直支援をしている、これが日課である。一人あたり、1万クローネ(20万円)の障害年金があり、うち4500クローネ(9万円)が家賃、残り5500クローネ(11万円)は食事と、生活費である。2週間に1回は、ハイキング、山登り等に行っている。これには、自己負担がある。休暇には旅行もしている。18人の教育福祉者、事務、掃除婦等のスタッフが、障害者の望む生き方を支援している。コンタクトパーソンが置かれている。福祉工場で働いているが、広く、各自が、自分にあった仕事をマイペースでしている。時間給は120円(100−200円)であった。障害者の働く権利については、「第8回社会保障国民会議」においても、竹中 ナミ委員( 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)が『障害があっても活力を持って社会に貢献しつつ安心して暮らせるというようなことについては、全く記述がありません。障害者に関する記述は、「出産に起因して重度脳性麻痺となった者への速やかな補償を行う」という記述があるだけです。これはあたかも、重度脳性マヒで生まれると、人生を失った人になるのだというふうにとられかねない記述であると思います。私たちの活動の仲間には、重度脳性マヒのチャレンジドも多数おられ、自分も社会の支え手になろうという意欲を持って努力をされています。働くチャンスが無い時代には「社会から補償をどれだけきちっとしていただけるか」という考え方が主流ではあったんですけれども、最近ではそうではなくて、自分も自立したい、支え手になりたいという方々が増え、大変努力もしておられます』という発言をしている。

デンマークでは障害者も働く権利を保障されているが、日本は、まだ、不十分である。日本も「障害者の働く権利」について、ノーマリゼーションの考えに基づいての実現が必要である。

 

3)高齢者が学び続ける国

デンマークの高齢者福祉を支えているものは、デンマークの民主主義である、それを集約したものが、「生活支援法」等の法律であり、市の福祉が実施している。デンマークの民主主義は長い期間かけて、育て上げられおり、教育システムの中でも、確立している。教育費は義務教育のみならず、大学においても、無料である。次に述べるフォルケホイスコーレにも、国は多額の補助金を出している。

デンマークの特色であるフォルケホイスコーレ(生のための学校)について若干みてみたい。フォルケホイスコーレはデンマークで約95校、(北欧で400校)、うち、高齢者向けは5校である。農民運動・宗教運動の父といわれているグルンドヴィの指導の学校である。上からの教育でなくて対話で「生きることの自覚」を促すという考えであり、全寮制である。理念は「対話と共生」であり、入学試験はない。フォルケホイスコーレを日本では「国民高等学校」とか「民衆学校」と訳され日本に紹介されているが、日本にない学校だけにその意義伝わりにくい。その発端は1844年、敗戦によって荒廃した国土の復興と郷土愛の向上のために、グルンドヴィによって、提唱され、1851年、クリステン・コルによって設立された。グルンヴィは、ラテン語を学んだ少数のエリートが学び、社会を牛耳っていた19世紀のはじめ、真の民主主義の社会を実現するために、農民の教育が重要と考え、フォルケホイスコーレ(生のための学校)を提唱した。当時20代の若者の1割がこの学校に学んだといわれる。時代とともに、教育内容は変化しており、現在は、高齢者、環境、風力発電、中学4年(エフタースコーレ)等を対象にしたものが注目を集めている。現在ではすべてが私立であり、一定の条件をみたし国の認可を受ければ、国から運営費の上限約75%の補助(ハード面の維持経費と人件費の半分)を受け取ることが出来る。

2002年に訪問した「エルシノア」のフォルケホイスコーレは高齢者を対象にしたものであって、70歳代、80歳代の人が2週間のコースで学んでいた、杖をつきながら先生の前に集まっている高齢者の姿に感激した。随分、人気があるようで、全国から応募があるという。学習意欲の高い高齢者が多いと感じた。この学校では、国からの補助金は必要経費の2分の1程度になる。コースは25コースあり、短期コース(1−4週)と長期コース(28ヶ月)があり、授業料は生活費を含めて、週当たり34万円である。音楽、彫刻、旅行、デザイン、ダンス、写真技術、デンマーク文学、ビデオ技術、各種スポーツ等多彩である。ここも、入学試験も入学資格もなく、先着順に入学が決まり、寝食をともにしながら、教師と学生が交流しながらまなぶ学校である。授業だけでなく日常の共同生活から社会人間関係を学ぶ学校である。それに国が多額の補助金を出している。このような教育が高齢者の自立を高めるとともに、デンマークの高齢者福祉施策を支えていると感じた。

 

Bデンマークの高齢者福祉の課題

2回にわたって、デンマークの高齢者福祉政策をみてきたが、デンマークの高齢者福祉対策も課題を抱えている。ひとつは次第に増加している「民間参入に伴う課題」である。利用者の要望で、選択肢を多くしていくために、民間参入を認め、その数は増加してきている。課題となるのは「民間委託と官民の連携のあり方」である。官にしても民にしても、その組織の中で完結することを必然的に求める。ネストベッズでは150戸の高齢者住宅(介護型)を1カ所に集中しているが、高齢者住宅(介護型)を訪問した際、ホルベック等の地区より高齢者住宅の高齢者と地域の住民、高齢者とのつながりが弱いのではないかと感じた。民間委託が増加していく中で、高齢者住宅がひとつの福祉エリアを形成することは問題を含む。これは、民間経営の高齢者住宅の集団が大きくなればなるほど、課題が大きくなる。2点目は医療との連携である。デンマークは県が廃止され、広域行政機構(レギオナ)になっている。医療の責任が広域行政機構にあり、福祉・介護の責任が市にある中で、医療エリアは福祉・介護エリアよりも広い。したがって、医療エリアの中に複数の福祉・介護エリア持つようになる。医療と福祉・介護の複雑な連携が課題である。3点目は移民の増加とその高齢化である。北欧は歴史的にも移民を出し、受け入れてきた。その人たちが高齢化してきている。そのなかで、異なる文化、異なる価値観が混在化してきている。4点目は、それにさらに拍車をかけて行くのが「ヨーロッパ一体化、EU化」であろう。他の経済圏域との競争もある中で、どのような考え方で行政を進めていくのか、その中で保健・医療・福祉・介護をどのように位置づけるか、今後の課題である。5点目は、効率化、能率化、合理化との闘いである。既に、配食サービスにおける冷凍食品の活用、グループホームの食事の委託がされてきている。食事は生きるための基本である。自分たちでつくるのが原点である。これを、どのように考え、実施していくか、デンマークにおいても大きな課題である。高齢化の進む各国が、保健・医療・福祉・介護の問題をどのように考えていくのかが問われているのかもしれない。北欧型民主義国家デンマークでは、今後も住民の意見を聞きながら、これらの課題の解決の道を模索していくであろう。

 

参考文献

1)花村春樹 「ノーマリゼーションの父 N.E.バンクーミケルセン」 ミネルヴァ書房 1994

2)関 龍太郎 デンマークの高齢者福祉を支えるもの 海外社会保障研究 162号 pp.53-66. 2008.

3)清水満 生のための学校 新評論 1993

4)澤渡夏代ブランド デンマークの子育て人育ち 大月書店 2005 

5)宮下孝美、宮下智美 あなたの子どもはあなたの子どもではない 萌文社 2004

     

@デンマークの2008年、2009年の変化  

A デンマークと島根の比較   

B デンマークの歴史

 C 2002年のデンマークの高齢者福祉

★デンマークスタディ2003年報告

@デンマークの高齢者福祉政策の変遷 

Aホルベックの現在 

B福祉原点ホルベック

Cサムソー島の脱石油プロゼクト 

D自由学校と保育

E2003年5月ツアーメモ

F 亀家朗介氏報告・・ホルベック報告

                      ゜   自由学校報告

                              デンマークの教育

★B1990年代報告

@デンマークにおける高齢者福祉の構築

Aデンマーク研究会の歩み

Bデンマークにおける認知症老人対策

Cデンマークの母子保健

Dデンマークってどんな国

Eイギリスにおけるボランティア活動

Fデンマーク、スウェーデンにおける補助器具

Gホルベックの92年の試み

Hデンマークの訪問看護  

Iデンマークにおける住宅政策

Jデンマークの看護教育

Kデンマークの高齢者福祉の構築、その2

Lデンマークの高齢者福祉の最近の動向

 

Mデンマークの高齢福祉施策から学ぶもの

Nデンマークの高齢者福祉施策から学ぶもの(2)

Oスウェーデンから来たモニカ

Pノールウエーの高齢者福祉政策

Q地域医療体制の再編合理化と地域住民の実態

 

Rデンマークの高齢者福祉対策から学ぶ

S糖尿病について

@スウェーデンとデンマークの高齢者福祉政策から学ぶ

 Aク゜ラスザックス市の高齢者福祉政策から学ぶもの

Bデンマークの高齢者福祉の変遷

C隠岐の高齢者福祉を考える

 

 

Dデンマークと日本の高齢者福祉対策から学ぶ

E地域医療体制の再編合理化、社会保障国民会議中間報告批判、医療過疎と地域住民の実態

F地方分権・福祉の課題メモ

G 健康長寿日本一をめざして

 

きっと、世界がそして明日の日本のありかたが見えてきます 。 せき       トップへ戻る